霧の空 霞の原

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 連れてこられたところは屋上だった。
 屋上は円形になっていて、まるでお城の塔みたい。
 天井はないように見えて、薄いレースのカーテンみたいなものが頭上を包んでいる。
 そして、その上には満天の星空が広がっていた。
 これもきっとマフォリナの術なんだろうなぁ……
 なんて思いながら、上を見ながらマフォリナの後を追った。
 あたしの手首が開放されたのは、中央まで来たときだった。
「マフォリナ、どうしたの? 思いっきりいつものマフォリナと違うよ?」
「伝心の術で茶化されたんだ」
「はへ?」
 新しい術の名前が出てきた。
「リカがラインと話している間中、ラインから伝心の術で話しかけられていたんだ」
「伝心の、術?」
「あぁ、知らなかったか。伝心の術というのは、ある一定の距離内にいれば、近くにいなくても話が出来る術だ。まぁ、これは互いに習得していなければ意味がないがな」
 思わず、新しい知識を頭の中に叩き込む。
 じゃなくて!
「話しかけられていた、って? あ。だから、さっきあんなに怒ってたの?」
「ああ。ちょっと、な」
 その言葉を最後に話すことが終わってしまった。
 なんとなく気まずい雰囲気。
 何を話したらいいか戸惑っていたら、マフォリナが無表情で切り出してきた。
「どうして還ろうとしない」
 息を呑んだ。
 マフォリナの表情が硬いせい? ううん、気付かれてしまったから
「……気付いて、たの?」
 あたしの言葉にマフォリナの表情が緩む。
「ああ。最近目が伏せがちだった、それにため息も多かった。気持ちが沈んでいる証拠だ。現在の状況を考えれば、何が原因かおのずとわかってくる」
 マフォリナは相変わらず堅苦しい、機械みたいな話し方をする。でも、声色はとっても優しかった。
「そっか……そう、だよね」
「どうして還りたくない?」
 マフォリナの言葉が変わった。
「……マフォリナは、あたしがいなくなっても平気、だしね」
 ずっと心の中でもやもやしていた呟きを吐き出す。
「リカ?」
「会えなくなっちゃうんだよ!?」
 怒鳴りつけるように、叫んでいた。
「……やはりそれか」
 ため息を吐き出すのと同時に、マフォリナがつぶやいた。
「知って、たの?」
「いや、先ほどからラインがそうだと……」
 えぇーっ!?
 驚いているというか、呆然としているあたしの隣でマフォリナはそうだったのか、なんてのん気につぶやいてる。
「え、でも。そうならどうして、さっきあんなに怒ったの?」
「そ、そこに戻るのか?」
「だって、気になるじゃん。ねぇー、教えてよぉ!」
 じりじりと詰め寄るあたしとは正反対に、マフォリナはじりじりと後退る。
 ついに壁まで追い詰めると、マフォリナは諦めたように口を開いた。


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