ラインさんの言葉に俯きかけていた視線をラインさんへと戻した。そのときのラインさんの笑顔は何故かすがすがしく感じた。
「それで相談っていったい何を……?」
「ようやく返還の術が完成したと思ったら、肝心のお嬢さんが沈んでしまっている。どうしたらいいとマフォリナに泣き付かれてしまったんだよ」
ラインさんは何かを茶化すように軽い口調を崩さない。
「そんなに落ち込んでたんだ……」
自分で確かめるように、繰り返しつぶやく。
「ふむ、一番の問題はお嬢さん自身が何故そうなっているか理解していないところだな」
ラインさんがあたしの反応を見て、そう分析する。
やっぱり、マフォリナのお友達だ。
ラインさんも理論派なんだぁ。
マフォリナにも普通にお友達がいると思うと、なんだか嬉しくなってきちゃった。
思わず口元がふふ、と緩んだ。
なぜだかラインさんが目を瞠る気配がした。
またもや伏せがちだった視線をラインさんの顔へと戻す。
ラインさんは思った通り、目を瞠っていた。
それも、珍しいものを見たかのように。
「……どうしました?」
「いや、私のことはいいんだ。それで? お嬢さんはズバリ指摘されて、どうして微笑んだんだい?」
「ラインさんって、やっぱりマフォリナのお友達なんですね……」
「一体どうしたんだい? 藪から棒に」
聞かれた内容を答えたのに、変な顔をされてしまった。
ひとまず、同意を得るために理由を説明してみる。
「ほら、マフォリナってあんな性格してるじゃないですか。普通にお友達なんて……あまりいないと思ってたから」
「だから嬉しい、と?」
こくん、と頷く。
するとラインさんはマフォリナみたいにニヤニヤと嬉しそうに笑いながらぶつぶつ呟きだした。
類は友を呼ぶって、昔の人はよく言ったもんだ……
半ば呆れながらラインさんを眺めていると、部屋の扉が急に開いた。
扉が外れちゃうじゃないのという程の音にびっくりして、部屋の入り口へと視線を向ける。
すると、そこには息を切らしたマフォリナがいた。
「ま、マフォリナ? どうしたの?」
ソファから立ち上がり、マフォリナの方へと近寄ろうとした。
それよりも先にマフォリナはあたしの手首を掴み、ラインさんに言い放った。
「お前はもう帰れ!」
急にそう言われたラインさんはもちろん、あたしも訳がわからず、ポカンとマフォリナを眺めた。
呆然とマフォリナを眺めるあたしとは対照的に、理由が思い立ったのか、すぐににんまりと微笑みを浮かべたラインさんは満足気に頷いた。
「そうか、そうか……。ようやくそこに気がついたか……」
「ひとりで納得して満足気なとこ悪いが、早々に帰れ。たった今、今すぐだ」
マフォリナのいきり立った様子にラインさんはそそくさと立ち上がり、部屋の入り口へと向かった。
途中、マフォリナとすれ違うときに何かつぶやいたように見えたけど、気のせいかなぁ……
「は、早く帰れッ」
あたしはいまいちマフォリナのこの慌て様がわからなかった。
ラインさんは部屋の入り口までたどり着くと、こちらを振り返り、捨てゼリフとばかりに楽しそうに吐いた。
「ははっ、馬に蹴られないうちに帰るとするよ!」
ラインさんの言葉にマフォリナが手近にあった本を投げようとすると、その刹那に扉が勢いよく閉まった。
マフォリナはしばらく息荒く、あたしの飲みかけのお茶をぐびーっと飲み干した。
「――ふぅ」
「……落ち着いた?」
マフォリナはひとつ、大きく深呼吸をすると急く様に立ち上がった。
「リカ、ついて来い」
え、あたしの問いかけは無視ですか?
「ほら、行くぞ」
そうして、マフォリナは再びあたしの手首を掴み、ずんずんと屋敷の中を進んでいった。
あたしはただ、手を引かれるままにマフォリナについて行くしかなかった。
戻る | 進む | 目次
Copyright(c) 2008 all rights reserved.