霧の空 霞の原

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「どういう意味よ!?」
 ちょっと信じられないっ! 片手間ってどういう意味よぉ!?
「大体、最初に魔法を教えてくれるって言ったのは、マフォリナの方なんだよ!? どうして、今、片手間になるのよ!」
「片手間もなにも、僕は君をもとの世界に還すための術を一刻も早く完成させなければならないんだ。それを考えれば、片手間になるのもわかるだろう?」
 ふむむーっ! そ、そうなんだよね。あたし、マフォリナに早くその返還の術っていうのを完成させてもらわなきゃならないんだよね。でもでも! あたしだって魔法使いたいよぉー!
「リカ、もしや片手間の意味を取り違えてないか?」
「ふへ? てきとうに、ってことじゃないの?」
「違う。返還の術を完成させる合間合間に教える、と言うことだ。それに君のことだ、一つの術をマスターするまで時間がかかるだろう」
 なんとなくバカにされてるような気もしたけど、納得した。
「それならいいよ。教えてください。で、いつから始めるの?」
 マフォリナは片手で口を押さえ、ほんの少し考え込んだ。
「リカも今日はもう疲れているだろう。明日から始めようか」
 マフォリナのひと言で決まった。それからあたし達はマフォリナの術でいつもご飯を食べている部屋へと移動し、ちょっと早い夕食をとり始めた。


 夕食が終わると、それぞれの自由時間。でも、マフォリナは何故かあたしを構ってくれる。
「ねぇ、マフォリナ?」
 って言っても、マフォリナはひたすら本を読んでいるんだけど。だから、今も返事すらしてくれない。
「ちょっと、マフォリナってば!」
「……なんだ?」
 ややあって、ようやく返事が返ってきた。
「どうしてココで読んでるの?」
 ココ、とは今いる部屋。そして、あたしに宛がわれた寝室。まるで、自室のようにソファでくつろいでいる。まぁ、もともとマフォリナの屋敷だし? あたしが文句言える立場じゃないのはわかってるんだけど。
「ん? 邪魔だったか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「なら、問題ない」
 マフォリナはその言葉を後に、再び本の世界へと戻っていった。きっとここから先はなんて呼んでも、返事してくれないと思う。ちょっと寂しいなぁ、なんて思ってみたり。
 でもこうなると、あたしはあたしで何かするしかない。仕方なく、部屋のあちこちに積み上げられている本の中から一冊取り、見てみる。
「……やっぱり読めない」
 が、文字は読めないはずなのに、内容が頭に入ってきた。
「えっ、ちょ、なんでぇーっ!?」
 本を掲げてギャアギャア騒いでたら、マフォリナがうっとうしそうに振り向いた。
「一体リカは何を騒いでいるんだ?」
「マフォリナ、大変! 字が読めないのに、内容がわかっちゃう!」
 ハイテンションなあたしと打って変わって、マフォリナはいたって冷静沈着。それがどうした、なんて顔をしてる。
「字が読めないのは、リカがこの世界の人じゃないから。内容がわかるのは、リカが術に慣れてきたから。僕が持っているのは大半が術書だからな」
 初めて聞く言葉に頭をかしげる。
「術に慣れてきたから、ってどういうこと?」
 マフォリナはあたしの言葉に再びうっとうしそうな顔をして、それでも丁寧に教えてくれた。
「いいかい、術というのは、こちらが発するエネルギーと対象が発するエネルギーが合わさり、特定の反応を引き起こす一連の動作を指すんだ。このエネルギーは、それぞれの術を発するときによって性質が変化するんだが、基本的に一括りにしている」
 ここまではわかるか、と確認するマフォリナ。ふんふん、と理解しながら必死で頭を振るあたし。そして、マフォリナはコホン、と続けた。
「つまりリカはここ数日間、術に触れることで、このエネルギーを知らずの内に体感していた、というわけだ。そして、現在。エネルギーを身体で覚えたリカは、知らずの内に術書の内容がわかる、というわけだ」
 わかったか、と確認しながら満足そうにソファに座りなおすマフォリナ。術に触れるってか掃除なんだけど、なんて考えながらも、うんうん、と頷くあたし。そんなあたしを見て、尚満足そうに、マフォリナは微笑んだ。それはまるで、ビターチョコレートが一瞬でミルクチョコレートに変わるほど、甘い微笑みだった。
 きっと、あたし、顔真っ赤。でも、マフォリナがすぐ自分の本に夢中になってくれたから、見られなくて済んだけど。ちょっとホッとしたけど、なんとなく釈然としないな。


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