霧の空 霞の原

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 マフォリナが消えた後、どうしたらいいのか、ぼーっとしていると、さっきの小鳥さんが飛んできた。
「リカ! 早く主の研究室へ行きましょっ」
 あれ? なんだか、さっきとしゃべり方違くない?
「さっきの……小鳥、さん?」
「ええ、そうよ。ワタシ、主の命令で外ではあんなしゃべり方しかできないの。やっと自由にお話できて嬉しいわっ。ね、移動しましょ。……っと、まだワタシの名前を言ってなかったわね、ワタシはピーズ! 呼びたいのなら、ピーズ様と呼んでもかまわなくてよっ」
 な……なぁに、このおしゃべりな小鳥さんは……。
「ピーズ……ちゃん? はおしゃべりさんだねー」
「ええ、もちろんっ。だって、ワタシ、小鳥だもの。おしゃべりがこの世の至高の喜びよっ」
「そ、そうなんだ……」
 あははー……。こ、この子と話してると疲れるっ……!
「それより、マフォリナの研究室って?」
「これも説明してなかったわねっ。基本的に魔術を教授できるところって、主の研究室くらいなの。だから、ワタシ達はこれから研究室へと行くのよ。え? ワタシがいる役目は、って? もーう、リカだけだったら、このお屋敷で迷子になって、主の手を煩わせるだけじゃなぁーいっ! だからっ、こうしてワタシがリカの案内役として、ここに残っている、ってわけ。わかった?」
 ぐぉーっ、っていう効果音が聞こえてきそうなスピードで話すピーズちゃん。一体どうやったらあんな風に早くおしゃべりできるのかなぁー……。あたしには絶対無理……。
「ちょっとッ! リカってば! トリップしてないで、答えなさいよッ!」
 ピーズちゃんの声が段々とヒステリックなものへと変わっていく。
「あ、はいっ! 案内よろしくね、ピーズちゃん」


 こうして、あたし達は今、なっがぁーい廊下を進んでいる。
「あ、次の角を斜め上右にねっ」
 ピーズちゃんはあたしの肩に止まったまま、こうやって指示を出す。なんだか、それだけを聞いていると、何かのゲームのコマンドみたい……。でも、本当にそういう風に廊下が曲がってる。
 本当に不思議館だなぁー……。一体、どうやって建てたんだろ……。
「ねぇねぇ、ピーズちゃん」
「なに?」
「この家ってどうやって建てたの?」
「は? あんた何バカ言ってるの? 主の術に決まってるでしょっ! 術よっ!」
「あ、なるほど……」
 それにしても、ピーズちゃんうるさい……。耳元でピーピー騒がないで欲しいなぁ……。
「ほらっ、扉が見えてきたでしょっ! あれが研究室よっ!」
 ピーズちゃんが言うとおり、あたしたちの眼前におっきな扉が姿を現した。材質は木、かな。木製のヨーロッパあたりでよく見かけそうな頑丈そうな扉だった。
「リカ、何やってるのよっ! さぁ、早く扉を開けて!」
 ピーズちゃんに促されるままに扉に手をかける。ぎぎぃー、と軋んだ音を響かせ、扉は開いた。


「ようやく来たか、遅かったな」
 扉の向こう側には、実験室みたいな部屋が広がっていた。違うのは、部屋の中央に大なべが火にかけられていることくらいかな。そして、マフォリナはその大なべのすぐ傍にいた。
「なによっ! あたしはマフォリナみたいに瞬間移動できないのよ!」
「まぁ、なんでもいい。とりあえずこちらに。さっそく教授しよう」
 ひろーい研究室を中央へ進む。
 いよいよか、……さっきのマフォリナの独り言で推理すると、あたしたちの世界とマフォリナたちの世界じゃ時間のスピードが違うんだよね。ってことは、どっちかの世界が早いんだよね。はっ、あたしたちの世界が早かったらどうしよーぅ! あ、あたしが帰る頃に友達みんなおばあちゃん!? うわぁーんっ、これじゃあ浦島太郎じゃないのぉー!
「何を百面相しているんだ? しっかり聴いてないと、とんでもないことになるぞ」
 いつの間にかあたしは大なべの前まで来ていた。
「か……考え事してただけだもんっ!」
 マフォリナは若干、訝しげな顔をしたけど、すぐにもとの顔に戻った。
「さて、はじめようか」


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