風が治まって目を開けてみると、今度は野原に立っていた。
どこにマフォリナさんって人がいるのかな?
「お嬢さん、こっちだよ」
お兄さんは私が向いている方向とは反対の方向を指差した。その方向に首をひねってみると……
「うわっひゃ!」
うにょうにょとねじれた高ーい塔が正面に建っていた。それと、塔に寄り添うように隣にお家がちょこんと建っていた。お家の方はあたしたちが住むような普通のお家だった。
「これが偉大なる、そして奇なる魔法使いマフォリナの住処だ。どうなるかはわからんが、君に期待しているよ」
なんて、お兄さんは言うと、学校でもらうようなプリントみたいな紙切れを強引に渡して消えてしまった。
その場にぽつんと残されたあたし。
えーっと、どうしたらいいのかな?
「とりあえず、マフォリナさんという人を訪ねれば、いいのかなぁ。でも、どっちの建物だろう……」
ふたつの建物の前でうぅーんと唸っていると、目の前に小鳥さんが飛んできた。
「わぁ、小鳥さんっ。ねね、マフォリナさん、ってどこにいるかわかる……わけないよね」
『主ハ変ワリ者。主ハ他トハ違ウ。サア、何処ニイル?』
「こ……小鳥さんがしゃべったぁ……」
びっくりして、目をぱちくりさせていると、小鳥さんは同じことを繰り返した。
「……主、ってマフォリナさんのこと、だよね。お兄さんも言ってたけど、変わった人、なんだよね。ってことは、この高ーい塔にいるのかな?」
塔の方に足を向けると、目の前で小鳥さんが慌てたように翼をばさばさと羽ばたき、同じことを繰り返した。
「ほえ? 違うの? じゃあ、こっちのお家の方にマフォリナさんがいるんだぁ」
と、お家の方に足を向けると、小鳥さんはおとなしくあたしの肩に止まった。
やっぱり、こっちにいるんだ……
コンコンッ……
「こんにちはー」
玄関の大きく、重そうな扉を叩き、声をかける。
『主ガ勝手ニ入レト言ッテイル』
「勝手に入っちゃっていいの? ……じゃあ、お邪魔しまぁす」
一言声をかけ、扉を開こうと奥に力を入れる。
が、扉が重くて開かない……
「ふむむむー!!」
どれだけ力んで押してもぴくりとも動かない……。
急にひらめいた。
「あ。これ……引くんだ」
扉を引くといとも簡単に開いた。
頑張ってたあたしがバカみたいじゃないのよぉー!
あまりのマヌケさ加減に一人恥ずかしくなり、急いでお家の中に入った。
「君はバカなのか?」
入った瞬間に頭上から言われた。
「む! あなた、失礼ね!」
声のする方を睨みつけるように言った。
「ふわわ……浮いてるー!」
あたしをバカにした張本人の男は、何もないところにふわふわと浮いていた。
大体2階くらいの場所に浮き、深青のローブを風もないのにはためいていた。
改めてあたしはその場所から周りを見渡してみた。
天井はこれまたさっきと同じように先が見えない程高かった。
外から見た限りではそんな感じしなかったのに……
床には鮮やかなブルーのじゅうたんが敷き詰められていた。
「まったく、入ってきて最初にやる行動が周囲観察か? というよりも、君は一体誰だ?」
その男は浮いていた場所からあたしの目線まで降りてきていた。
「あ、そだ! ねね、マフォリナさんってどこにいるの? あたしは荒木理香って言うの」
その男は首をかしげながら呟いた。
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