確か、あたしは学校へ向かうため、通学路を歩いていたはず……なんだけどなぁ。
「どこか間違って曲がっちゃった? ううん、ちゃんと前を向いて歩いていたし、いつものトンネルをくぐったはず、だし……」
でも、今、目の前で広がる光景はまず、日本、じゃない。
ほら、ハリポタで見るようなロンドンの街並み? みたいな。
レンガ道にレンガ建物、シックでよさげな灯り。
あ、これ電気じゃないんだ。
なにで灯ってるのかなぁー?
「そこのお嬢さん」
後ろから声を掛けられたので、振り返ってみると、真っ赤なコートを着たかっこいいお兄さんが立っていた。
「なんですか?」
「君、どうやってここに来たんだい?」
にこにこにこーって笑いながら、このお兄さんは聞いてきた。
「えとですね、トンネルをくぐったらいつの間にかここに立ってました」
「なん、だって!?」
お兄さんから逆らっちゃいけないぞオーラが出てたので、正直に答えてみたら、なんだか余計怖いオーラが出てきちゃった。
逃げたいなぁ。
「お嬢さん、ちょっと私と一緒に来てください」
嫌です、と言う前に腕をつかまれ、強い風が下から吹き上がってきた。でも、次の瞬間、さわさわーっと風は流れていった。びっくりして閉じた目をそろそろと開けてみると、また光景が変わっていた。
床には真っ赤なじゅうたんが敷き詰められ、天井は先が見えないくら高かった。
こういうのが血よりも真っ赤、って言うのかな。
「ここ、どこですか?」
「この世界の中枢、と言ってもいいでしょう」
名前を聞いてるんですけどー。
「ライン、それが例の娘か」
天井から偉そうな声が響いてきた。でも、よーく見ると、光がふよふよ浮いていて、そこから声が響いていた。
それってなによー、それって。
「はっ、娘自体からはさほど力は感じませんが……」
「……何者かがあちらとこちら世界をリンクさせた、ということか」
「おそらく……」
偉そうな声とお兄さんはあたしなんか無視して、二人だけの世界に突入してしまった。
うー、暇だぁ。
「娘、名は?」
「へ?」
「名前だ、それくらいあるだろう」
なんだか、言い方ひとつひとつがすんごく嫌なんですけど。
「……荒木理香」
「アラキリカ、お前の世界に還りたいか?」
「? そりゃ、お家には帰りたいに決まってるじゃん」
「なら、マフォリナのもとで術を習得しろ。あ奴なら還り方を教えてくれるだろう」
言っている意味がよくわからず、ふよふよ浮いている光をじーっと睨みつけていると、お兄さんが横から噛み砕いて説明してくれた。
「ここはあたしが生活している世界とは違うってこと?」
「ああ、お嬢さんは私たちとはまったく正反対の世界の人間なんだよ」
「まったく正反対?」
「ああ、お嬢さんの世界には術なんてもの、ないだろう?」
「術? 陰陽道ならありますよ?」
「いや、そういうのじゃなくて……お嬢さんの世界の言葉で言うのなら、魔法、かな」
「ああ! そういうのはまだないみたいです」
「ここで生活するにはその魔法を習得していないと、とても生きていけないんだよ」
「……だから、マフォリナさんという人に魔法を勉強しろ、と?」
「その通り」
むぅー、お勉強ぉー?
「さ、ライン。アラキリカをマフォリナのもとへと連れて行ってくれ」
偉そうな声は相も変わらず、偉そう。しかも、あたしを邪険にしてるのは気のせいなのかな?
お兄さんは再びあたしの腕を掴むと、またあの風が吹き上がってきた。
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