エデンの園で会いましょう
16.Confide

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 馬車は門をくぐり抜け、庭を過ぎ去り、見知らぬ道へと入っていった。
「カイミャくん、どこへ向かっているの?」
「迎賓館である、イエローローズ館だよ。兄上もそこにいらしてるんだ」
「ケイシュ様、も?」
 頭をかしげていると、お母様が説明するように続けた。
「ええ。も、よ。あなたを悲しい想いの渦中に追い込んだ不届きな輩というお邪魔さんもいるけれどもね。どうやら、彼、とんでもないことしてしまったみたいね」
「どういうこと?」
「先生、ボスディア家の情報網に掛かったら、隠ぺいされたことだって露見されちゃうんだよ」
 カイミャくんの言葉にひとつの予想に行き当たる。
(アラン様……やはり、何かやっておられたのね)
 馬車は庭から森へと入り、奥へと進んでいく。
 木々の間からほんの少し、光がちらちらと覗いていた。
 しばらくすると、森の奥からライトアップされた黄色い館――イエローローズ館が姿を現した。
 入り口前で馬車は止まり、入り口で立っていたガリウラが扉を開き、中へと招き入れた。


 小ぶりなシャンデリアに照らされた廊下を進み、ホールへと向かう。
 一歩一歩進むごとに、心臓の音が増していく。
 一歩一歩近づいていくごとに、体が歓喜に満ち溢れた。
 廊下とホールを隔てている扉が重い音を立てながら、その隔たりを無くしていく。
 ホールの真ん中にその人は立っていた。
 喉が詰まって声が出ない。
 あの人の姿を見たいのに、涙が邪魔をして見せてくれない。
「ラティカ、行ってらっしゃい。何も心配することはないわ」
 お母様に背をトンと押され、私はそのまま、愛しきその人の胸元へと飛んでいく。
「ケイシュ、様……っ!」
 ケイシュ様は手を広げ……
「来るなっ!」
 手だけをこちらにやり、顔は違う方向を向いていた。
 ちょうど死角になっていたその方向へそろそろと視線を移動させていく。
「アラン、様……!?」
 ケイシュ様からほんの少し――勢いをつければ容易に衝撃を与えられるほどの距離に、ナイフを片手に持ったアラン様がいた。
 アラン様はナイフを持った方の腕を常に動かし、けん制をかけていた。
「ラティカ、こっちに来るんだ……」
 アラン様はナイフをケイシュ様の方へと向けていた。
 目はうつろで、身体は前後左右に揺れている。
「行くな、ラティカっ」
 ナイフに視線をとらわれ、ケイシュ様の制止の声すら遠のいていった。
「ラティカ……こちらに来ればこのナイフを仕舞ってあげよう……さあ、来るんだッ!」
(行きたくない、のに……!)
 恐怖で足が勝手に動き、アラン様のもとへと近づいていった。
「いい子だ……ラティカ……切り刻んで、あげよう……」
 その言葉が耳に届いたときには、すでに手を伸ばせば届く距離まで近づいていた。




「動くなっ!」
 突然の乱入――警察部隊が現れた。
 それは一瞬の出来事だった。
 窓や天井から警察部隊が現れ、次の瞬間にはアラン様は羽交い絞めにされ、取り押さえられていた。
「遅くなってすまない、ケイシュくん」
 入り口から聞えた声はお父様だった。
 その隣でお父様に支えられたお母様が蒼白な顔で涙を流していた。
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
 お父様に一言礼を述べた後、ケイシュ様は私の方へと歩み寄ってきた。
「ラティカ、すまない……怖い思いをさせてしまって」
 傍でケイシュ様の声を聴いた瞬間。
 安堵で体の力が抜け、気を失ってしまった。
(ああ、助かった……)


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