ロザンヌのもとで居候をして数日。
私は掃除をしたり、散歩したりとのんびりとした日々を過ごしていた。
そんな生活に慣れ始めた日の夕方。
「ただいま、ラティカ! ついに情報を掴んだわよ!」
帰ってくるなり、興奮して抱きついてきた。
「おかえりなさい、ロザンヌ。情報って?」
「あのボンクラ貴族ったら、そんな大した切り札用意してないわ!」
「そ、それで?」
ドキドキしながら次の言葉を待つ。
「ボスディア家でならず者を雇っているって噂を流したみたいだけれど、大したことにはなってないみたいよ」
大したことにはなってない、その言葉に安堵し、身体の力が抜けた。
「ああ、もう。ラティカ、これだけで安堵してちゃだめよ」
ロザンヌの言葉に頭をかしげる。
「今夜、ボスディア家からお使いが来るの」
「どういう、こと?」
ロザンヌはふふん、と笑うとこっそりと教えてくれた。
「ねぇ、ロザンヌ。本当にいい、の?」
今、私たちはロザンヌの実家に来ていた。
「なぁに言ってるのよ! このボスディア家からの招待状にはなんて書いてある?」
「……クローヴィス家で支度をし、夜会に間に合うようにお越しいただきたい。尚、話はついている故気にしないでくれ――って書いてある、けど……」
ぷう、と頬を膨らましていると、ロザンヌのお母様が笑いながら部屋に入ってきた。
「ふふ、本当に気にしなくてもいいのよ、ラティカちゃん。おばさん、あなたの力になれるだけで嬉しいのだもの。あなたのことはあなたのお母様から色々と相談もされているから、ね」
「お母様、から?」
心配してくれての相談かしら、とドキっとしてしまった。
「ああ、内緒だったかしら。まあ、いいわよね。時間もあまり残ってないわよ、早く支度しちゃいなさい」
お母様とは違う、チャキチャキとした暖かさに包まれながら、支度の手を進めた。
迎えに来た馬車は数日前乗った、ボスディア家の馬車だった。
フェルーナが手綱をひき、カイミャくんがぴょこんと飛び降り、従者の真似事をしていた。
そして……
「お、お母様?」
馬車の中から出てきたのはお母様だった。
「ラティカ、元気だったかしら。お父様、何があったのか漸く把握されたわ。だから……」
帰ってらっしゃい――。
お母様の暖かさ、全身で感じた。
「っと、その前に行かなきゃいけないとこがあるのよね。それでは、小さな従者さん。案内よろしくお願いしますわね」
お母様はカイミャくんに視線を合わすようにかがみ、にっこりと笑った。
「はい! さ、先生のお母様も先生も乗って!」
カイミャくんに促され、馬車へと乗り込む。
見送りに出てきてくれていたクローヴィス家の人々に礼を述べる。
「ロザンヌ、本当にありがとう……」
「あら、ラティカ。気にしなくてもいいって何度も言ってるでしょ? それに、またお茶でもしましょう。それでチャラにしてあげるわ」
ロザンヌらしい物言いに笑いが込み上げてくる。
「さ、早く行きなさい。ケイシュ様がお待ちよ」
ロザンヌのその言葉を合図に馬車が動き出した。
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