エデンの園で会いましょう
5.First Lesson

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「ラティカ様っ!」
 お食事が終わり、部屋から出ると、マチが迎えに来てくれていた。
「マチ、ありがとう」
「ラティカ様、大急ぎで戻りましょう」
「ええ、そうね」
 マチの案内のおかげで自室に与えられている部屋までスムーズに戻ってこれ、カイミャ様のお部屋までたどり着くことが出来た。
「マチ、ありがとう」
「いえいえ、そんなっ! それでは、ラティカ様。頑張ってくださいね!」
「ええ、ありがとう」
 マチに激励され、深呼吸を一回。
 意を決し、扉をノックする。


 コンコンッ
「どうぞ」
 中からカイミャ様の声が聞こえる。
 カチャリッ
「失礼しま――」
 ドサドサドサッ!!!!
 扉を開ければ荷物が落ちるような仕掛けになってたのだろう。
 開けて入ると同時に、頭上から大量の本が落ちてきた。
 私はそれをとっさに避ける。
 それでも、2、3冊は当たってしまった。
「な、何をっ!?」
 パチパチパチ……
 音のするほうを見ると、カイミャ様が愉快そうに手をたたいている。
「いやいや、見事な身のこなし方ですね、先生」
「か、カイミャ様?」
「では、これはどうです?」
 カイミャ様はそう、にっこりと、不適に笑みを浮かべたとき。
 ダンッ……!!
「カイミャ様っ!! 何をなさっておられるのです!?」
 ガリウラが乱入してきた。
 ゴッ……!
 ガリウラの頭上から木のブロックが落ちてきて、それが見事、ガリウラの頭に当たった。
「が、ガリウラ!?」
 頭に衝撃を受けて、ガリウラはゆっくりと床に崩れていく。
「あ、あ……」
 カイミャ様は混乱してろくな言葉を紡げないで、口をパクパクさせていた。
「カイミャ様、ガリウラを診ていてくださいっ。誰か人を呼んできます!」
 そう言って、部屋から飛び出した。
「どなたかっどなたか、いらっしゃいませんでしょうかー!?」
 廊下をそう叫びながら走る。
「どなたかっいらっしゃいませんでしょうかー!!」
 今度は先ほどよりも大きな声で。
 数人のメードたちが周囲の部屋から慌てて出てきた。
「どうなさったのですか?」
 一番近くに来ていたメードがそう尋ねる。
「お医者さまをお願いしますっ! ガリウラが頭に打撲の怪我をっ!早くっ!」
 数人がバタバタと駆けていく。
 私は急いでもと来た道を戻った。
 部屋の中では、カイミャ様がガリウラの横で座り込んで床を見つめてる。
「カイミャ様……」
 私はすぐそばまで行って、声をかける。
「僕のせいだ……、先生を追い出そうとした僕が悪いんだ……。僕がっ……」
 カイミャ様はそう何度も何度も呟き、床にこぶしを叩きつけていた。
 私はいつの間にか、カイミャ様を抱きしめていた。
「カイミャ様、カイミャ様のせいではありません。そんなにご自分をお責めにならないで。それこそガリウラが悲しみます」
 最後のくだりでカイミャ様が反応した。
「ガリウラ、が?」
「ええ。それに、すぐにお医者様もやって来られます。すぐに元気になって、カイミャ様の前に現れてくださいますよ」


 お医者様に来ていただき、ガリウラさんは無事目を覚ました。
「あれ? ここは……」
 ガリウラはあまり動かさない方がいいということで、カイミャ様のベッドで寝かされていた。
 それをカイミャ様が説明する。
 説明の後、一呼吸おいてこう切り出した。
「……嫌いに、なるか?」
 カイミャ様の身体はほのかに震えていた。
 それが少しはなれたところにいる私にもわかった。
 ガリウラはしばしの間、瞳を閉じ、また、あの笑顔で答えた。
「どうしてあなた様を嫌いにならなければならないのですか?」
「それじゃあっ……!!」
「でも、怒らせては貰いますよ」
 ガリウラはそう言いながら、起き上がった。
(……ガリウラって、笑顔で人を地獄に落とすタイプよね)
「うん、それくらいなら受ける」
「では、まず。ラティカ様に謝ってください」
「……どうして」
 心外だと言わんばかりに顔をしかめている。
「だって、そうでしょう? 私だったからよかったようなもの。もし、これがラティカ様でしたら、モナシス家が怒ります。そうなれば、迷惑がかかるのは、ケイシュ様なのですよ?」
「兄上、に?」
「はい、そうです」
「……先生、ごめんなさい」
「いいえ。それに、私に何があっても、モナシス家は何も言ってきませんわ」
「それは……どういう?」
 ガリウラが怪訝な声を出す。
「家名を汚した娘には、容赦しませんから。それが、たとえ、大事な娘でも」
「ラティカ様……」
「それだけのことをやってしまいましたから、しょうがないですよ」
 私の告白のせいか、部屋の中がしんみりしてしまった。
「先生、これからでも、勉強しましょう」
「ええ、そうですね。その予定でしたものね」
 カイミャ様は私の腕をぐいぐい引っ張って、テーブルのもとへ連れて行った。


「先生、僕のこと、『様』なんてつけなくていいから」
「どうしてです?」
「それと、その敬語っ!」
 ビシッと私の口元をカイミャ様が指す。
「あら、どうしてです?」
「……今まで来ていた家庭教師の先生とは、違うみたいだから……。だからっ」
「……普通におしゃべりして欲しい、と?」
「うん……。」
 しばしの間、私たちの間に沈黙が降りる。
 私は降参とばかりに、一息つき、答えた。
「……わかりました、善処してみますね」
 そう答えると、カイミャくんは輝くように笑顔を向けてくれた。


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