エデンの園で会いましょう
4.Breakfast

Back | Next | List


 ピチチ……
 窓の外では小鳥がさえずりあっている。


 ガチャッ


「ラティカ様、おはようございます」
 マチがにっこり笑って寝室に入ってきた。
「おはよう」
 私もその笑顔にうれしくなって笑顔で返す。
 マチが私の服装を見て、不思議そうに聞いてきた。
「ラティカ様はいつもお早いのですか?」
「あら、どうして?」
「だって、今の時間だってメードの活動時間ですよ?」
「確かに、そうね。そうよね。ここはモナシスの家じゃなかったものね……」
「ラティカ様?」
 モナシスの家では、いつも日が昇りきる前に起き出し、朝のお勤め―身体を洗い、マナーを一通り復唱が終わって、ようやく朝食。
 朝食は朝食で重苦しい雰囲気が食卓を包み、聞こえるのは食器がぶつかり合う音だけ。
 朝食が終わるとそれぞれの用事の準備に――。
「それで? マチ、私はなにをしたらいいの?」
「お着替えは……もう済んでらっしゃいますから、ちょっとご案内したいところがあるんです。朝食はその後でいいですか?」
「ええ、いいわ」
「では、ご案内します」


 私はマチに連れられるまま、半地下の厨房へと向かった。
「ここが、キッチンです」
 促されるまま中を覗いてみると、そこでは皆が皆、忙しそうに走り回っていた。
 その中をマチはゆうゆうと歩いていく。
 かと思ったら、体格の大きな男の人に二言三言話すと、その男の人と共にこちらに戻ってきた。
「ラティカ様、こちら、コック長です」
 マチは忙しい中、わざわざ連れてきてくれたみたい。
 私は時間を取らせないように、略式で軽く挨拶をした。
「ラティカ=モナシスです。よろしくどうぞ」
「こちらこそ、ラティカ様。みんな、あなたに期待をしているのですよ」
「あら、なぜ?」
「ハハ……あのカイミャ様に対して可愛いと豪語なさった方ですからね」
「カイミャ様、可愛い方じゃないですか。特に、ガリウラに甘えているときなどは、ね」
「そこまで見抜いてますか。なら、今度は結構持つかな?」
「?」
「いや、失礼。前回の方は、1週間も持たなかったのでね」
「そうなのですか……出来うる限りがんばりますわ」
「そのお言葉を聞けただけでいいでしょう。では、戻ります」
「お忙しいところすみませんでした」
 コック長はいやいやと笑いながら、戻っていった。
「では、食卓の方に参りましょうか」
 マチはそう切り出し、厨房への階段から上がってすぐの両開きの扉の前に案内した。
「中へどうぞ」
「あら、マチは?」
「私はここまでですので」
「そう……」
「ラティカ様、お食事の後、カイミャ様のお勉強がすぐに入ってますので、即刻向かってくださいまし」
「お道具は?」
「お食事中に運ばせていただきます」
「マチ、いいわ。私が自分で運びます。だから、終わった頃に迎えに来て頂戴」
「ですけど……」
「自分の仕事道具くらい、自分で運ばないでどうするの? ね?」
「でも」
「おはようございます、ラティカ様。扉の前で何を騒いでいるのですか?」
 後ろからガリウラが声をかけてきた。
「あら。ガリウラ、おはようございます。後ろのお二方は?」
 ガリウラの後ろに漆黒で短髪の男の人とブラウンの髪をした男の人がいた。
「ああ、髪が漆黒の方がオウン、ブラウンの方がダルクです」
「はじめまして、オウン。ダルク」
 軽くスカートの端をつまんで、お辞儀をする。
 それにあわてるオウンとダルク。
「わわっ、ラティカ様自らそのようなことなさらないで下さいっ!」
 と、慌てるのはダルク。
「……カイミャ様の教師でしょう? なら、俺たちより位が上です」
 と、ちょっとぶっきらぼうなのはオウン。
 お二方とも、ガリウラと並ぶほどの個性の強い方。
「オウンは第3執事で第1執事の補佐をしているんですよ。ダルクの方は……」
「知っていますよ。ロビウスの言っていたダルク殿、ですね?」
「はいっ! 訪問客のリストアップをさせていただいてるのです」
 ダルクが嬉しそうに微笑む。
「では、改めまして。おはようございます」
「おはようございますっ」
「……おはようございます」
(んんー、挨拶の仕方によっても個性が出てるわね)
「それでは、入りましょうか」
 ガリウラのその言葉によって、扉が開けられる。
 扉の向こう側には屋敷でよく見かけたものとは違い、正方形に囲むようになったテーブルが鎮座していた。
「めずらしい……」
「?」
 オウンが何が、と不思議そうに首をかしげた。
「こんな形のテーブル、初めて見ました。どうしてこんな形に?」
「それはですね、執事間での会議にも使われるからなんですよ」
 ダルクがわかりやすく説明してくれた。
「でも、こちらの方が私は好きですよ。だって、これなら、皆さんと仲良くお食事できますしね」
 その最後の一言で3人ともが固まった。
「どうなさったのですか?」
「……い、いえ」
「ラティカ様っ! どうか、このまま変わらないでくださいよっ!」
 なにやら、皆さん大げさなような……?
 そんなことを考えている間に、席を勧められ、お料理が運ばれてきて、朝食はスタートしていた。


Back | Next | List

Copyright(c) 2008 all rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-