マチと仲良くアフタヌーンティーをしていると、ガリウラが再び部屋に訪れた。
「どうなさったのですか?」
「カイミャ様が外出先よりお帰りになられたのですが、どうします?」
「会います」
「では、ご案内します」
ガリウラの言葉に身だしなみを整える。
「ラティカ様っ」
ガリウラと一緒に部屋から出ようとすると、マチに呼び止められた。
「なぁに?」
「が、頑張ってくださいね!」
「ええ」
にっこり笑顔で答えると、マチはいってらっしゃいませ、とお辞儀をして送り出してくれた。
場所は変わって、本館3階奥。
この本館、中庭が中心にあって、それを囲むように四角くなっている。
もちろん、中は吹き抜け……なのだけれど、サンルームのように天井はガラス張りになっていた。
それを感慨深げに通り過ぎて、玄関ホールとはちょうど反対側。
そこの豪勢な扉の前。
「さて、ここがカイミャ様のお部屋の前です」
道順、覚えましたか? と、またもやにこやかな笑顔で聞いてくれる。
「大丈夫だと思います」
「では、参りましょうか」
ガリウラがその扉をノックする。
「何だ」
中からはまだ声変わり前の男の子の声。
「ラティカ=モナシス先生をお連れしました」
「入れ」
ガリウラがその言葉に反応して扉を開く。
部屋の中は淡いブルーに統一してあり、中央につやのある木製のどっしりとしたテーブルが鎮座していた。
その向こうのテラスへと続くガラス扉の前に明るい朱の髪をした少年が立っていた。
「カイミャ様、ラティカ先生をお連れしました」
ガリウラのその言葉に少年――カイミャ様は振り返った。
「はじめまして。ラティカ=モナシスと申します。この度……」
「なんだ……まだ子供じゃないか」
カイミャ様の私の言葉をさえぎっての第一声がこれだった。
「カイミャ様っ!」
ガリウラの叱咤が飛ぶ。
「ガリウラ、僕はただ単純に僕の先生の感想を述べただけだよ?」
「しかしですね!」
「ガリウラ、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ?」
「そうですか?」
カイミャ様はそんな私の態度を見て、面白なさげに鼻で笑った。
そして、再びガリウラの叱咤が飛ぶ。
「仲がよろしいのですね」
そんなお二人の関係を見て、ほんのりのん気に言ってみた。
カイミャ様は面食らった顔をして口をパクパク。
ガリウラはいつもより少し赤らめた笑顔でありがとうございます、と。
「手元に来ている資料によれば、先生はモナシス家の方だと」
「ええ、そうです」
カイミャ様はなるほど……としばし、考え込んだ。
「では、伝統に厳しいでしょうに」
カイミャ様は何か言いたげな視線をこちらに寄越してきた。
「どうでしょうね」
当たり障りがないよう、笑顔でごまかす。
「先生は何がお好きですか?」
これ以上つっ込んでも無駄だと悟ったのか、質問を変えてきた。
「そうですね、アフタヌーンティーの時間は好きです」
女性としてごく当たり前な回答を。
カイミャ様は面白くないのか、舌打ちを一回。
そして、ガリウラの叱咤が再び。
「カイミャ様がお得意なお勉強は?」
「そうだな……勉強は好きだが、教える先生は嫌いだ」
にっこりと笑顔で返されてしまった。
これがミセスの言っていた辛らつなこと、なのね。
「カイミャ様っ! いい加減にしてください!」
「どうして怒るんだ?」
カイミャ様はそれそう、愉快そうにガリウラに聞き返す。
「せっかく来ていただいた先生に、どうしてそう、意地悪をなさるのです?」
「なら、聞き返す。この先生は兄上のことを侮辱しないと言い切れるのか?」
(どういうことかしら? それに、話が違う方向を向いてるみたい……)
「なら、直接お聞きになればよろしいでしょう?」
「だが、先生に無礼ではないか?」
「……あなたがそれを言うのですか?」
ガリウラが呆れたように、困ったように笑いながら問いかける。
「う、うるさいなぁ!」
それに反論するカイミャ様。
それが初めて垣間見れたカイミャ様の少年らしいお顔だった。
なんだか、そのご様子がすごく可愛くて、くすくすと笑ってしまった。
「……なんで笑うんだよ」
「だって……カイミャ様、とても可愛らしいんですもの」
「ふ、ふんっ」
カイミャ様は照れたように明後日の方向に視線を向ける。
それが、カイミャ様と私とのはじめての出会いだった。
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