Double Moon
20.そして、再会

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「ジュグ、気をつけてな」
「おう」
 ラヴィスがエールを送る。
「向こうに戻らなければ、もうジュグをいじれないのか……」
「いじるな」
「嫌だね」
「ムィ……」
 ムィも同様にエールを送ってくれるが、言い回しに思わず脱力してしまう。
「その羽根はきっと、向こうの世界のお前に繋がっているから。こっちでの記憶が戻れば、すぐに会いに行くんだぞ?」
 ムィがライが残した羽根を指して言う。
「もちろんだ」
「さて、お前さんたち。別れの挨拶は終わったかの?」
 婆さんが時間だ、と言いたげに割って入ってきた。
 俺は婆さんが描いてくれた魔方陣の中に入る。
 なんでも、俺の魔力と引き換えにノゾミのいる世界に転送できるらしいんだ。
「ジュグ! あっちの世界の俺とも仲良くな!」
「当たり前だ! お前はどこ行っても、俺の一番のパートナーだ!」
 婆さんが呪文を唱えだす。
「近いうちにそっちに戻るぞ! 覚悟しておけ!」
「ムィ、早く来いよっ!」
 周りの視界が薄れだす。


 ノゾミとライが消えてから色々あった。
 ムィがライの反応が消えたと飛んでき、ライの残していった羽根を見つけ、あっちの世界への行き方を色々と探してくれた。
 ラヴィスも婆さんも次期長老も、みんな協力してくれた。
 ノゾミ……今から会いに行くぞ。




 スズメのさえずりが俺を起こす。
 長い夢を見ていたように身体が重い。
 俺はベッドからゆっくりと身を起こし、首からぶら下がっている羽根型のペンダットトップを指の腹でなぞる。
「ノゾミ……お前に会いに来たからな」
 そうつぶやき、いつものように朝の支度を始める。
 俺はこちらの世界では“高本 悟”という人間。
 今日はノゾミに会いに行く。
 俺はカジュアルな服装で家を出る。
 俺の中には、悟としての記憶もあるし、ジュグとしての記憶もばっちり残っている。
 性格は、全然問題ない。
 まさに、“俺”なのだから。


 何かに誘われるように駅前広場のベンチに座る。
 俺は無意識にわかってるんだ。
 ここにいれば、ノゾミに会える、ということを。
 ベンチから少し離れたところでカバンを落とすマヌケがいる。
 そちらの方へと視線を移す。
 そこには信じられないというような顔をしたノゾミが立っていた。
 その横には友達なんだろう、ノゾミと同じくらいの年代の女の子がノゾミの様子に困惑していた。
 大きく見開かれたノゾミの瞳が細まる。
 それを合図に俺は立ち上がり、両手を大きく広げた。
 ノゾミは弾かれたように俺の方へと飛びついてきた。
「ジュグっ!!」
 飛びついてきたノゾミをしっかりと抱き込む。
「望、俺は今は悟って名前なんだぞ?」
 ちょっぴりイタズラ気に微笑む。
「また……会えた……っ。もう、会えないかとっ……!」
 望がぽろぽろと涙を流す。
 指で流れる涙をそっと拭う。
「とりあえず泣き止め。もう、離れないから」
 望はこくこくと頷く。
 それを満足げに見つめ、望の友達を見て、言ってやった。
「コイツとの予定、今日はキャンセルしてくれ」
 望は友達の方へと向き直った。
「麻ちゃん、ごめん! 今度埋め合わせするからっ!」
「いいよ、望。今度、じっくり話を聞かせてもらうことで免除してあげよう」
 望はその言葉に照れたように笑いながら頷いた。
 望の友達はにっこりと微笑み、俺の方へと向き直った。
「ジュグさん。望のこと、頼みますね」
 それだけ言うと、駅の方へと歩いていった。
 望の友達が俺のことを知っているような言動に首をかしげ、望に聞く。
「なぁ、望」
「なに?」
「俺のこと、話したのか?」
「えっと……うん」
「信じてもらえたか?」
 俺はそこが気になった。
 普通の人間はあんなおとぎ話、信じるはずがない。
 百歩譲ったとしても、夢で一蹴されるしな。
「もちろん。だって、真麻ちゃんだし」
「は?」
「ジュグ……じゃなくて、悟に今度話してあげる!」
 嬉しそうな望の顔を見ていると、俺も自然と嬉しくなってきた。
「あぁ。だが、先に望があっちから戻ってきてからのことを聞かせてくれるか?」
「もちろんっ!!」


 俺たちの旅は、また再び始まった。


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