さっきまで包んでいた漂っている感覚が消え失せ、身体中をなんとも言えない気だるさとじくじくした痛みが支配し出した。
私は顔をしかめ、目をそろそろと開ける。
すると、私の周りでハッとした空気が伝わってくる。
「ライ……? 大丈夫か!?」
「ジュ……グ? ムィさんは……?」
ジュグは一瞬びっくりしたような顔をしたけれど、すぐにいつもの顔に戻っていた。
「私の中の、ライが教えてくれた、の」
「お前の中の……ライ?」
「そう……今の、私は、ノゾミ。こちらの世界のライじゃなくて、ノゾミ」
ジュグは私が本当の名前を言ったことで、ぎょっとした顔をした後、後ろの方で様子を伺っていたお婆さんたちに出て行くように視線だけで促した。
それを目の端で捕らえ、私は慌てて引き止めた。
「ジュグ、いいの! ちょっと……外に出たい……」
「でも、お前……そんな身体で……」
「ジュグ、連れて行っておあげ」
お婆さんが横から助け舟を出してくれた。
私はジュグに手助けされて、外に出た。
地平線の向こう側に太陽の明かりが筋を作っていた。
「もう、朝なんだ……」
「ああ」
私は自分を勇気付けるためにひとつ深呼吸をする。
「ライ……?」
「ジュグ……静かに、聴いてね?」
「あぁ」
「正面切って言うのは恥ずかしいから、太陽の方を見ててくれない?」
ジュグは私の言葉に従い、太陽の方を向いてくれた。
私はジュグの背中を見つめ、伝えたい言葉を一生懸命探した。
でも、……見つからないよぉッ。
そう思った瞬間、横で羽音が聴こえた。
もう、時間切れ……?
早すぎるよぉ……。
ジュグ、これだけ伝えるね。
「ジュグ、大好きだよ。元気、でね……」
羽音が大きくなる……私が、この世界から、消える……。
羽音が聞こえた瞬間。
『ジュグ、大好きだよ。元気、でね……』
そうライ……いや、ノゾミが言ったような気がして振り返る。
でも、そこにはノゾミはいなかった。
「ライ、か?」
「うん。ノゾミは自分の世界に帰ったよ」
「そう……か」
「まぁ、私もすぐ消えちゃうんだけどね」
「どういう……ことだ!?」
ライに詰めるように問いかける。
だが、ライは何も答えず、ただ、笑うだけ。
「ライ……? どうして、お前までも消えてしまうんだ……?」
そう問いかけたとき、ライの顔が曇った。
でも、すぐさま、笑顔に戻った。
目に一杯涙をためながら。
「……ノゾミが、帰ったから、か?」
「ノゾミがいなければ、私はこの世界で存在していられないもん」
涙の筋が頬を流れる。
「ねぇ、ジュグ。目、瞑って?」
俺は言われたとおりに目を瞑った。
なんだか、前もこんなことあったな……。
そっと額に何かが当たる感触。
そこで思い出し、慌てて目を開けた。
そこにはもう、ライの姿も残ってはいなかった。
たった一枚の抜け落ちた羽根を残して。
途端に溢れ出してくる涙。
そして、心には喪失感が。
「くっ……このことだった、のかっ……!」
次から溢れてくる涙を乱暴に拭う。
だが、涙は止まらない……。
まさに夢の通り……止められないんだ。
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