Double Moon
18.運命の轍

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『ノゾミ、起きて』
 頭の芯を響くような声が私を呼ぶ。
 もうちょっと……このまま漂わせて……
『ノゾミったら、起きてっ!』
 声が急かしだす。
「煩いなぁ……」
 パチっと目を開けると、空中に私がいた。
「……えーっと、私?」
 まじまじと目の前の私を見つめる。
 唯一違うところと言えば、背中の翼だけ。
『やっと起きた。ったくもぉ、時間ないんだから』
 翼の生えた私は目線を合わせるように、降りてくる。
「えっと、どういうこと?」
『まず、今の私たちの関係を説明するわ。あなたはノゾミ。これはこちらの世界に来ても変わらないわ』
「じゃあ、“ライ”って言う名前は?」
『それは、私。ジュグに名付けられ、こちらの世界でのあなた、ノゾミができたの』
「?」
 考えすぎて眉間にしわが寄る。
 それを見たライは指で眉間をつつく。
『ノゾミは小難しく考えすぎなのよ。それに、ジュグが名付けてくれなかったら、存在そのものが消滅したのかもしれないのよ?』
「それはどうして?」
『この世界が異なる存在を排除しようとするから』
 しばらく考え込み、到達した結論を口にする。
「……ということは、私はあなたで、あなたは私ってこと?」
『そういうこと。納得したところで、今の私たちの状況を説明するわ』
「今の、状況?」
『そう。ノゾミと私はジュグを護るために刺された』
 ライの言葉に刺された瞬間のヴィジョンが頭の中で再生される。
『それで、ノゾミの生命力が危なかったから、私のものに取り替えたのね。そしたら、魔法が効かなくなっちゃって……』
「も、もしかして……未だ危篤状態!?」
『言っちゃえばそうね』
「なんでよぉ! このままじゃ、死んじゃうじゃない!!」
『あぁ、それは大丈夫。』
「どうして?」
『だって、ムィさんがこっちに向かってくれてるから。』
「はい?」
『えっとね、ムィさんが私と同じ存在、ってのはわかるよね?』
 こくん、と頷く。
『それでね、私たちには私たちだけにしか通じない電波っていうか、ネットワークがあるのね』
「それで連絡した、ってこと?」
『そういうこと!』
「それにしても、どうしてムィさん?」
『それは、ムィさんの能力が治癒、だから』
「治癒? じゃあ、ライのは?」
『私のは移転。でも、もう使えない』
「ど、どうして!?」
『私もノゾミも、互いと融合しなければ生きられないから』
「もしかして……私に生命力を分けたから……?」
『否定はしない。でも、後悔はしてないよ。実際、もう帰らなきゃいけないし』
「じゃあ……ジュグとは、もう、会えない……だね」
 ぽろぽろと涙が溢れてくる。
『ちょっ……ノゾ、泣かないで……っよ!』
 ライの涙声に反応して、ライを見つめる。
 ライも私と同じように涙を流していた。
 それを見て納得した。
 あぁ、私たちは同じ存在なんだ、って。
「……帰ろうか」
『うん。最後にちょっとだけ、ジュグと話をさせてあげる』
「ジュグ……と?」
『うん。でも、本当にちょっとだけだから。伝えたい言葉だけ選んで』
「……うん」
 さぁ、戻ろう。
 私たちがひとつになるため。
 私たちが大切な人に会うため。
 そして、別れを言うために……。


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