後ろでテントが消えるのがわかった。
ちらりと目の端でライの安全を確認する。
結界方陣の中か。
「なら、安全だ」
この際、婆さんたちはどうなってもいい。
ライが安全なら、それでいい。
ひとり、またひとりと沈めていく。
額に汗が浮き上がる。
だが、相手は待ってはくれない。
汗をぬぐうことなく、またひとり地面に沈めた。
そのとき、ライのいた辺りから膨大な魔力の噴出を感じ取った。
次の瞬間。
ずぷっ……
そろそろと後ろを振り返る。
羽根が舞う。
草原で見た夢の姿のライが、いた。
俺と背中合わせになるように、そこに、いた。
ライがこちらに顔を向ける。
「変な、顔」
ライは微笑みを湛え、倒れこんできた。
俺は慌ててそれを支える。
「ライっ……!!」
搾り出すように、漸く声が出た。
「おいっ! お前、なんでここにっ!?」
向こうから婆さんたちが駆けてくるのが聞こえる。
ライの頬に手を添える。
ライが何かを伝えようと、懸命に口を開ける。
「だ……じょぶ……」
「そんな姿してなにが大丈夫なんだよっ!!」
ライの後を追うように、ライの背から抜けた羽根が空から舞い落ちる。
ライはそれを見届けるようにゆっくりとまぶたを閉じた。
「ライ……? う、うそだろ? おいっ!」
今起こったことが信じられなくて、ライを力いっぱい揺する。
「ジュグ! お嬢さんは儂らに任せて、自分の仕事をやれっ!」
婆さんたちが追いつき、叱咤を飛ばす。
俺はその言葉に従い、ライをそっと横たわらせ、ゆっくりと立ち上がる。
最初の獲物は、ライを刺した奴。
握っていたソードが俺の魔力を浴びて、マジックソードへと変貌する。
男に向き直る。
「お前が、最初の犠牲者、だ」
剣先をそいつに合わせ、一気に振り落とす。
剣先から雷の筋が現れ、男を跡形もなく消し去った。
「さて、次はどいつだ?」
無意識に口が笑みをかたどる。
「俺を怒らせたこと、後悔するがいい」
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