「お嬢さん、起きるんじゃ」
宴が終わった真夜中、お婆さんに突然起こされた。
何事かと起きてみると、お姉さんも起きていて、何かの支度をしていた。
周りを一通り見渡したが、ジュグがいない。
「お婆さん、ジュグは?」
眠い目をこすりながら、お婆さんに問いかける。
「外で時間稼ぎしとるよ」
「え?」
不審に思っていると、外から金属がぶつかり合う音が響いてきた。
「な、に? この、音……?」
「今はそれよりもこっちへ」
お姉さんが私の手を持って、テントの奥へと引っ張っていく。
テントの奥には、不思議な魔方陣が描かれていて、私だけその中に放り込まれてしまった。
「お嬢さん、辛いと思うが、しっかりと目を開けて現実を見るんじゃよ」
おばあさんは苦しそうに言い、呪文を唱え始めた。
すると、みるみるうちにテントが姿を消す。
それと同時に、魔方陣が光り出し、魔方陣内と外を切り離してしまった。
『お婆さん? お姉さん?』
私の声が魔方陣内で木霊する。
テントがあった場所の向こう側にジュグの姿を見つけた。
ジュグが戦っていた。
何人もの男たちを相手に、戦っていた。
『ちょっ!? お婆さん! ここから出してっ!』
お婆さんに必死に叫ぶ。
でも、声は届いてなかった。
さっきのお婆さんの言葉が頭の中を流れる。
『今は、しっかり、と……ジュグを見る、しかないんだ』
いきなり突きつけられた現実に、震える手を組み合わせ、ジュグを見つめる。
ジュグは向かってくる相手に勇敢に立ち振る舞っていた。
次から次へと攻撃を避け、ソードの柄や峰で打撃を与え、次々と倒していった。
ジュグの額には大粒の汗が浮かびあがり、疲労はそうとうきているはず。
でも、ジュグは倒し続けた。
そのとき、目の裏にヴィジョンが浮かび上がった。
ジュグが後ろから刺されるヴィジョンが。
目の前が真っ白になった。
目を開けると、ジュグの後方でナイフを構えた男が走り始めたとこだった。
『こんなとこから……見てるだけなんて……』
「嫌っ!!」
声が届いた。
それだけじゃなく、魔方陣も跡形もなく消えていて、周囲の音も耳に届いた。
私はまっすぐジュグの後ろへ滑るようにと向かった。
ずぷり。
嫌な音がお腹から聞こえてきた。
前を見ると、さっきの男がいた。
お腹を見ると、ナイフが突き刺さり、血が滲んできていた。
後ろには驚いた顔のジュグ。
「変な、顔」
ふっと笑い、倒れる。
途中でジュグが支えてくれた。
痛みは感じない。
視界が薄らぐ。
ジュグが何か叫んでる。
「だ……じょぶ……」
声が喉を通らない。
空からは、白い羽根が舞い落ちていた。
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