宴は何事もなく無事に終わり、俺たちは婆さんのテントで眠りに着いた……はずだった。
しかしそれは、ひっそりと落ちてくる冷気により、妨げられた。
婆さんの魔法により、村全体は砂嵐をはじめ、雨や雪なんかも遮断するはず。
だが、今、外から感じるのは……。
不審に思い、瞳を閉じ、感覚を研ぎ澄まし、外の情景を視る。
まぶたの裏に浮かんでくる外の情景。
俺たちのテントを中心に円になっている十数人の厳重装備の猛者共。
猛者共のそれぞれの手には、己が最も得意とする得物が握られている。
囲まれている……か。
ラヴィスがいないだけ、まだマシか。
その内の1人が氷の宝玉を手にしているのを確認した。
先程からの冷気はこのおかげ、か。
「……ジュグ」
婆さんがライを起こさないように呼びかけてきた。
「なんだ、婆さんも起きてたのか」
「当たり前じゃ。あんな野蛮な冷気を儂が感じられぬはずないじゃろ」
「なら、婆さん。あの氷の宝玉を……」
「散らしたとしても、合図になるぞ」
「だよなぁ。じゃあ、ちょっくら蹴散らして来る」
「気をつけて行ってこい。儂らはあのお嬢さんを起こして邪魔にならないところに行っておるからの」
「あぁ、頼む」
ちらりとライを見る。
幸せそうに眠り込んでやがる。
外は大変なことになってるってのによ、のん気なもんだぜ。
寝転んだ姿勢のまま、自分の得物を手に取る。
もう片方の手で耳に収まっている魔力制御のカフスをはずす。
俺を中心に魔力の風が沸き起こる。
相手もそれを感じ取ったのか、得物を持つ手に力を込めた。
久しぶりの魔力噴出。
俺を取り囲む魔力が歓喜の声を上げながら、俺を囲んでいる雑魚のもとへ一瞬に運んでくれた。
いきなり目の前に現れた俺に慌てどよめく雑魚共。
「さぁて、仕掛けてきたからには楽しませてくれるんだろうな?」
不敵な笑みを顔中に湛え、飛び上がった。
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