Double Moon
08.純白

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 それきりライは口をつぐんでしまった。
 確かに、これはライの問題だしな……。
 それにしても、あんな唄で本当に帰れるのか?
 俺はそこまで考え、重たい息を吐き出し、上を見上げた。
 上には真っ青な空が広がっていた。
 これも、婆さんも魔法のおかげ、か。
 視線をライの方に変える。
 そこには、まだ、何かを考え込んでいるライがいる。
 ちょっと、何を考えているか読み取ってみる。


 ……………………だぁっ!!
 サッパリわかんねぇ!!
 俺はムィじゃないんだっ。
 心を読み取ろうなんざ、考えるんじゃなかった……。
 それにしても、長い間考えてるな、コイツ。
 後ろにいた太陽がもう真上に来てやがる。
 結界のおかげで暑さは感じずに済むから、別にいいけど。
 ライの考え事がまだ続きそうなので、草原の上にごろんと寝転ぶ。
 それとほぼ同時にさわっと風が吹く。
 あ−、気持ちいい……。
 風に誘われるように、俺は、眠りに落ちていった。


 真っ白い空間に俺が立っていた。
 何をするわけでもなく、ただ、立っていた。
 不意に、羽音が響いた。
 音の方へと振り向く。
 幻想の生き物、天使がそこに浮かんでいた。
 そう、羽をはばたかせて。
 俺は何かを問うた。
 天使は笑うだけで何も答えない。
 それでも、なお、俺は問い続けた。
 ふと、天使の顔が曇った。
 初めて天使の顔を見た。
 ライの顔、だった。
 天使――いや、ライは瞳に清い水を精一杯に溜めながら、笑った。
 ひどく綺麗だった。
 もう、何もいらない、とさえ思った。
 こいつを手放すな、と誰かが警告している。
 だが、俺は手放した。
 ライに促され、俺は瞳を閉じる。
 額に何かが当たる感触。
 はっと瞳を開ける。
 ライは、もう、そこにはいなかった。
 そのあとは、ただ、涙が溢れるだけ。
 どれだけ流しても、止まらない。
 ……止まらないんだ。


「……ぐ? ……て……」
 誰だ、身体を揺らすのは……
「……グ? お……て……!」
 ライが……ライが泣いてるんだ……!
「ジュグってばっ! 起きてよっ!」
「っわ! な、なんだ。ライか……」
「ジュグ? どうしたの?」
 ライが不思議そうな、でも、心配そうな顔で覗き込んできた。
「? 何がだ?」
 すると、ライは俺の方を指差して、言う。
「泣いてるよ?」
 慌てて頬に手をやる。
 ……濡れている。
「どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
「大丈夫だ。ちょっと、な」
「? 変なジュグ」
 ライはそう言うと、俺の隣にちょこん、と座った。


 ちょっとな、哀しかったんだ。
 それに、なんだ? この、空虚感は。
 まるで……まるで、そう。
 なにか、大切なものを失くしたような……。


『自分に正直に生きないと、後で後悔するよ』
 ……婆さん。
『大切なものはね、失ってから気づいてしまうものなんだよ』
 ……ムィ。
『大切なものを守るためなら、何かを犠牲にしなきゃならないんだぞ?』
 ……ラヴィス。
 過去に言われた言葉たちが浮いては、沈んでいく。
 わかったよ。
 後悔しないように生きればいいんだろ?
 でも、それがアイツを困らせることになったら……。
 俺はどうしたらいい……?


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