それきりライは口をつぐんでしまった。
確かに、これはライの問題だしな……。
それにしても、あんな唄で本当に帰れるのか?
俺はそこまで考え、重たい息を吐き出し、上を見上げた。
上には真っ青な空が広がっていた。
これも、婆さんも魔法のおかげ、か。
視線をライの方に変える。
そこには、まだ、何かを考え込んでいるライがいる。
ちょっと、何を考えているか読み取ってみる。
……………………だぁっ!!
サッパリわかんねぇ!!
俺はムィじゃないんだっ。
心を読み取ろうなんざ、考えるんじゃなかった……。
それにしても、長い間考えてるな、コイツ。
後ろにいた太陽がもう真上に来てやがる。
結界のおかげで暑さは感じずに済むから、別にいいけど。
ライの考え事がまだ続きそうなので、草原の上にごろんと寝転ぶ。
それとほぼ同時にさわっと風が吹く。
あ−、気持ちいい……。
風に誘われるように、俺は、眠りに落ちていった。
真っ白い空間に俺が立っていた。
何をするわけでもなく、ただ、立っていた。
不意に、羽音が響いた。
音の方へと振り向く。
幻想の生き物、天使がそこに浮かんでいた。
そう、羽をはばたかせて。
俺は何かを問うた。
天使は笑うだけで何も答えない。
それでも、なお、俺は問い続けた。
ふと、天使の顔が曇った。
初めて天使の顔を見た。
ライの顔、だった。
天使――いや、ライは瞳に清い水を精一杯に溜めながら、笑った。
ひどく綺麗だった。
もう、何もいらない、とさえ思った。
こいつを手放すな、と誰かが警告している。
だが、俺は手放した。
ライに促され、俺は瞳を閉じる。
額に何かが当たる感触。
はっと瞳を開ける。
ライは、もう、そこにはいなかった。
そのあとは、ただ、涙が溢れるだけ。
どれだけ流しても、止まらない。
……止まらないんだ。
「……ぐ? ……て……」
誰だ、身体を揺らすのは……
「……グ? お……て……!」
ライが……ライが泣いてるんだ……!
「ジュグってばっ! 起きてよっ!」
「っわ! な、なんだ。ライか……」
「ジュグ? どうしたの?」
ライが不思議そうな、でも、心配そうな顔で覗き込んできた。
「? 何がだ?」
すると、ライは俺の方を指差して、言う。
「泣いてるよ?」
慌てて頬に手をやる。
……濡れている。
「どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
「大丈夫だ。ちょっと、な」
「? 変なジュグ」
ライはそう言うと、俺の隣にちょこん、と座った。
ちょっとな、哀しかったんだ。
それに、なんだ? この、空虚感は。
まるで……まるで、そう。
なにか、大切なものを失くしたような……。
『自分に正直に生きないと、後で後悔するよ』
……婆さん。
『大切なものはね、失ってから気づいてしまうものなんだよ』
……ムィ。
『大切なものを守るためなら、何かを犠牲にしなきゃならないんだぞ?』
……ラヴィス。
過去に言われた言葉たちが浮いては、沈んでいく。
わかったよ。
後悔しないように生きればいいんだろ?
でも、それがアイツを困らせることになったら……。
俺はどうしたらいい……?
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