Double Moon
07.ゆりかごの歌

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 ジュグの車に乗せられて見えてきたのは、ちっちゃな村。
 モンゴルとかで見かける、テントみたいなのを集団で張ってる。
 村って呼べるのかな……?
 入り口として立てられている素材不明の柱をくぐり、柱のすぐそばに車を止める。
 車を降りてから気づいた。
 その柱を境に、向こう側は砂嵐でゴォゴォ言ってるのに、こっち側はすごく静か。
 何も飛んでない。それどころか、さわやかなそよ風が吹いている。
 不思議に思ってると、ジュグが教えてくれた。
「長老の婆さんが魔法で仕掛けてるんだよ」
 だってっ! すごーい、魔法とか出てきちゃうんだ。
 へぇ〜…なんだか、本当に『異世界』に来てるんだ…。
 そう、実感しちゃった。


「おら、驚いてないで、ついて来い」
「あ、うんっ」
 あわててジュグの傍まで駆け寄る。
 村?に入ったあたりから感じていたんだ。
 『よそ者』って見る視線の多さを。
 でもね、それは私だけなんだ。
 ジュグには普通にすれ違って、普通に挨拶してる。
 ……やっぱり、違う世界から来たから?
 なんて、考えていると、周りにあるテントよりもふた周りほど大きなテントの前にやってきた。
「婆さん、いるか?」
 ジュグはそう入り口から声をかけ、遠慮なんてかけらもなく、ドカドカとテントの中に入っていった。
 私はどうしていいのかわからず、入り口で呆然と突っ立っていた。
 すると、ジュグが戻ってきて、一喝。
「何やってんだっ! さっさと中に入れ」
 その声を追いかけて聞こえてきたのは、やさしそうなお婆さんの声。
「お嬢さん、怖がる必要なんてないよ。入っておいで」
 その声に誘われるように、私はテントの中に入っていった。


 中にはジュグとさっきの声の主かしら、お婆さんと私より6歳くらい上かな、お姉さんがそれぞれの椅子に落ち着いていた。
「あの、お邪魔します」
 そう言葉を発すると、お婆さんが驚いたように目を丸くし、次に笑みを深めた。
「あぁ、いらっしゃい。礼儀正しいお嬢さん」
「えと……?」
 私がどうすればいいのかとキョロキョロしていると、お姉さんが椅子を取り出し、進めてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「さて、何から話そうかね……」
 お婆さんがそう切り出し、いろんなことを話してくれた。
 この世界に昔から語り継がれている神話に民話、伝説まで。
 ムィさんのことがあったからあまり驚かなかったけど、こっちの世界に異世界の人たちがちょくちょく来ているらしい。
 お婆さんはその人を間近で見るのは2回目…って言ってたかな。
 お婆さんの話だと、同じ世界から来たもの同士は何かで繋がっているんだって。
 一番最後に、ある唄を歌ってくれた。


「よーく聞いているんだよ。これは、お嬢さんが元の世界に帰るのに必要なことがぎっしりと詰まっているからね」
 私は一欠けらも聞き逃さないように、耳に全神経を集中させる。

何を想って門を叩いた
それを知るのは
ただ一人


何を想ってかの地に居る
それを知るのも
ただ一人


想いが解き放たれしとき


帰還の鐘が鳴り響く

「……わしもこれを先代から聞かされた。いつか迷ってくる異世界の者たちのために……。そして、次はこの子が継いでくれる」
 お婆さんはそう言って、隣に座っているお姉さんの方を見た。
「ババさま……」
 お姉さんは今はじめて聴いたらしく、すごくびっくりしていた。
「さて、お嬢さんのお役に立てたかな……?」
「あ、はい。ありがとうございました」
 そう言って、頭を下げる。
 唄は自然と頭の中に残っていた。
 いつでも思い出せるくらいに。


 少しの間談笑をした後、ジュグと私はテントから出た。
 お婆さんとお姉さんで話があるらしい。
 ……さっきの後継者の話かな?
 そして、今、私たちは村から少し離れた草原にいる。
 この空間だけ、草原の形のまま残されてるんだって。
 ジュグがなんだかうれしそうに話していた。
「……で?」
「で? って、なによ」
 ジュグは少しだけ呼吸をおいて、つなげた。
「……帰れそうか?」
「さぁね」
「さぁね、ってお前」
「まぁ、なんとかなるんじゃない?」
 とりあえず、そうごまかす。
 気づきたくなかったけど、気づいちゃった。
 さっきの唄の一節であった。

想いが解き放たれしとき
帰還の鐘が鳴り響く

 だって、私がここに来る直接的な原因って……ジュグなんだもん。
 どうすりゃいいのよ…一体。


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