Double Moon
06.外套(がいとう)

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 ライのローブを無事入手し、適当な食料も入手した。
 あとは、ラヴィスが来るのを待つだけ。
「ねぇ……」
 不意にライが言葉を発した。
「……なんだ?」
「私、帰れるのかな……」
 ムィの話を聞いて、不安になったのだろう。
「それをこれから探すんじゃないのか?」
「まぁ……そう、だけど……」
「今から不安になってどうするんだ。まだ帰れないと決まったわけじゃないだろう」
 本当にそうだ。というよりも、ラヴィス。どうしてお前はこんなに遅いんだ。お前のせいでライが弱音を吐き出しちまったじゃねぇか。
 いや、違ったな。ムィのせいだ。お前のせいで……。
 俺は弱音の吐く奴は苦手なんだよっ!!
「……ジュグ?」
 俺は出来るだけ自然を装い、なおかつ、普段よりも数倍無愛想に答えた。
「……なんだ」
「あ、ありがと。ちょっと元気、出た」
「……そうか」
 何なんだ、この女。さっきまで弱音を吐いていたかと思えば、もう元気になっている。本当に奇妙だ。
 と、そのとき。ラヴィスがようやく来た。
「ごめん、遅くなった」
「いいよ、私は気にしてないよ」
「……遅い」
「だから、謝ってるだろ?」
「それはいいから。で?」
「ちょっと待って。今出す」
 ラヴィスが荷物の中をゴソゴソと探している。
 ラヴィスの用事―センターにライのライセンスを取得してもらってきた。
 俺もそっちに行きたかったんだがな。
 ラヴィスの奴、「ライはジュグを追ってきたんだろ? なら、お前が一緒についていろ」とか言い出すしな…。
「ほら、ライ」
 ラヴィスがライにライセンスカードを渡す。
「? なに、これ」
「あぁ、それはな、ライセンスカードって言って……まぁ、関所を通るのに必要なものだ」
 ……お前、今、説明するの省いただろ。まぁ、いいけど。
「へぇ、そうなんだ」
「そこのボタン、触ってみてくれ」
 ラヴィスがライのカードの左下の登録ボタンを指差す。
 ライがそれに触る。
 カードから映像が浮かび、文字が浮き出てくる。
 浮き出た文字は、普段、俺たちが使っている文字ではなかった。
「『ようこそ、エスケへ』……?」
「お前、どうして読めるんだ?」
「え、だって。ニホンゴだし」
「ニホンゴ?」
「あっと、私の国の言葉」
「……なるほどな」
「これで、ライの登録も済んだ。そろそろ……だな」
 ラヴィスとはここでお別れ。
 もともと、ラヴィスと組んでいたミッションは終わっている。
 期日ギリギリまで飲もうと言う話だったが、ライのことが出来た。
 ラヴィスには本部に帰ってもらい、今まで起きたことを報告に行ってもらう。
 それからは……まだわからない。
 だが、本部から手がかかるのはわかりきっている。
 何かしら妨害が出てくるだろう。
 まぁ、俺の腕っ節があれば、何の問題もないけどな。
「あれ? ラヴィスさんは行かないの?」
 ラヴィスはローブを羽織ることなく、荷物も所持金と貴重品だけという、軽装な装い。
 ラヴィスのそのいでたちに疑問を持ったライが疑問をそのまま口に出した。
「あぁ、オレはここに残るからな」
「え……どうして?」
「本部に今度のミッションについての報告が残ってるしな。それに……」
「それに?」
「その報告書もまだなんだよ。だから、これから報告書を書いて、ライとは反対方向の本部へと向かわなければならないんだ」
 本当は報告書も出来ている。
 それに、報告書は各街にある支店でも十分だ。
 でも、今回のライが来たことに関しては報告書だけでは不十分すぎる。
 本当は俺が行けばいいんだが、ラヴィス曰く、俺はライについてなくちゃいかんらしい。
 ……変なことにならなければいいけどな。
「そう、なんだ。」
 明らかな落胆。
 それに困ったように微笑むラヴィス。
「ライ。ラヴィスには仕事があるんだよ」
「……ジュグは?」
 痛いとこを突かれてしまった。
「俺は、いいんだよ」
「というわけだから。ジュグがちゃんと帰る方法、探してくれるだろう」
「うん。じゃあ、ラヴィスさん、お元気で」
「ジュグ、頑張れよ……」
「あぁ、お前もな」
 俺たちはただ、それだけの言葉を交わし、別れた。


 ゲート付近。
 荷物の中から、俺の外套を取り出す。
 頭からすっぽり収まり、下は足元ギリギリまでの長さだ。
 その外套をみて、ライが文句を言う。
「あー! いいなぁ、そのマント」
「お前はそれでいいだろ。文句を言うな」
 一喝して、ゲートの役人にカードを見せる。
 その様子をライが不思議そうに見ている。
「何をやってんだ、お前もカードをこいつに見せるんだ」
 ライはあわててカードを取り出し、役人に見せる。
「はい、確認しました。そうそう、ディアナ地方でならず者が集まってきてますので、気をつけてください」
「おう」
 それだけ返事をし、ライをつれて、俺たちの移動手段のもとへと移動する。


「うわぁ、なに……これ」
「なにって……移動するための機械だ」
「すごい、オープンカーだ!!」
「お、オープンカー?」
「かっこいいなぁ」
 ライはひたすら感嘆の言葉を並べている。
 そんなライを尻目にとっととそれに乗り込む。
 乗り込んだ俺を見て、ライもあわてて乗り込む。
 ……なんだか、手馴れてないか?
 乗り方なんてまだ教えてないのに。
「あ、私の世界にもあるの。この機械。クルマって言うんだけどね」
「ほぉ」
 返事をしながら、いつものように動かすためにボタンを順番に押していく。
 ウィー…ン
 後ろから砂避けのガラスが頭上を覆っていく。
 それにもライは感嘆の声を上げる。
 ……なにが面白いんだ?
 カード挿入口にカードを挿入する。
 と、同時にエンジンが動き出す。
「出発進行ー!」
 ……嫌に浮かれてるな。
 果たして、もとの世界に帰る方法、見つかるかな。
 いや、見つけてやる。


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