『あ……』
見上げると月が二つあった。
『ど、どうして?』
誰かに発するわけでもなく、ただ、そう つぶやく。
ことの始まりは、ママとのケンカ。
ママのお小言が嫌になって、突発的に、外に飛び出していた。
ただ、がむしゃらに走っていたら、いつの間にか見知らぬ河原に立っていた。
そうして見上げると……そう、月が二つ浮かんでいた、と。
『ていうか、ここ、どこ?』
周りをもう一度見回してみる。
本当に見知らぬ土地。
建物の影はあるけれども、ぼんやりしていて掴めない。
「お前…」
いきなり後ろから声をかけられた。
振り返ると、ゲームでよく見る剣士の格好をした男の人が立っていて……。
『な……なに? だれ?』
「何をしている、ここで」
『し、知らない……!』
考える前に言っていた。
「ここへはどうやってきた?」
『走ってたら……ついたの』
どうしてこんな見知らぬ人に正直に話してるんだろう。
「……お前がもといた場所を思い浮かべながらあちら側へ走れ」
その人は、河とは反対側を指して言った。
『あっち……?』
指した方向を向く。
そちら側には、建物……いや、廃墟の影しかない。
私が何か言おうとしても、その人はそちらを指すのみ。
『うん、わかった。あっちに向かって走ればいいのね』
「もう、ここには来るな。お前が来てもいい場所ではない」
その人にあったのは、明らかなる拒絶。
でも、それを はいそうですか と聞く私でもない。
一言……負け犬の遠吠えごとく叫ぶ。
『ぜぇったい、また、来てやるんだからっ!』
私はそれだけ言うと、わき目も振らずに走った。
ただ、家を思い浮かべながら。
その所為か気づかなかった。
その人がひそかに微笑んでいたことを。
気がつくと、家の前に立っていた。
何が起こったのかわからないでいると、ドアが開く。
「のぞみ……ッ!」
ママが泣き腫らした目で私を見つけ、抱きしめた。
「どこ行ってたのッこの子はッ!」
ママのぬくもりを感じながらも心はあの、二つ月が浮かぶ河原へと行っていた。
絶対行ってやるんだから!
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