エデンの園で会いましょう
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「ここかしら……?」
 私は今、豪勢な門の前に立っていた。
 その理由はさかのぼること1週間前――
 お父様との意見の不一致で家を飛び出した。
 世間で暮らしていけるような業(わざ)も無い私は、当たり前のように途方にくれた。
 街を歩いているとき、中等学校時代からの友達であるロザンヌ=クローヴィスを思い出した。
 ロザンヌは“18になったら自立せよ”というクローヴィス家の家訓に従い、一人暮らしの真っ最中。
 そんな彼女の事情を知っていて、彼女の家に押しかけた。
 ロザンヌは私の事情を聞き、快く(?)家においてくれた。
 が、しかし。
 それは住み込みの職が見つかるまで――と言う条件付きだった。
 そこら中に知人友人がいるロザンヌの手伝いもあってありつけた職。
 それが“ガヴァネス(家庭教師)”だった。


 ジリリリリリ……
 門に備え付けてあるベルを鳴らすと、警備所から男の人が出てきた。
「何か御用ですか?」
 想像していたのとは違い、丁寧な言葉遣い。
「あの……?」
 答えない私をその男の人は不審な目で見つめていた。
 私はその視線に気づき、慌てて答えた。
「あっあの! ロザンヌ=クローヴィスさんからガヴァネスを探していると伺ったのですが……」
 男の人は考えるようなそぶりを見せ、答えた。
「……あぁ、ダルク殿から伺っていますよ。あなたが“ラティカ=モナシス”様ですね」
「はい」
 男の人は門を開け、敷地内へと手招いた。
「ようこそ、ボスディア家へ」
「失礼致します」
 一歩敷地内に足を踏み入れるとそこはもう別世界だった。
 前方には馬車が3台は同時に通れるかというほどの道が広がり、屋敷と門との中央には華やかな噴水が水の花を咲かせている。
 右手側には森が広がり、左手側には果樹園とバラ園が隣り合って存在していた。
 呆然と敷地内の様子に魅入っていた私に男の人は名を名乗った。
「私の名は、ロビウス=ザシュ。この屋敷の第8執事を任されております」
「第8、執事?」
「はい。あ、歩きながら説明します。お荷物をこちらへ」
「あ、軽いものですから自分で持ちます」
「いえ、これが私の仕事ですから」
 私は彼――ロビウスの仕事への熱意に負けて素直に荷物を渡した。
 荷物を受け取ったロビウスは驚き、言った。
「……十分重いと思うのですが」
「割と力持ちなんです、私」


 ロビウスに連れられて 屋敷への道を歩き出した。
 歩いている間、ロビウスにいろいろな話を聞いた。
 まず、この屋敷の仕組み。
 当主が一番偉く、次に二親等までの血縁家族。
 その次が第一執事と侍女長。
 その次に第2執事、第3執事――と言う風につながっていく。
 ロビウスは一応偉い役職だけど、偉い役職の中では一番下っ端に当たるらしい。
(私もそこに肩を並べるのかしら?)
 次にボスディア家の家庭の仕組み。
 現当主であるケィシュ様はボスディア家の長男で先代である御父様に代わりボスディア家を18歳と言う若さでまとめ上げている。
 ケィシュ様の御兄弟は6歳下のカィミャ様のみ。
 使用人の目から見ても相当な可愛がり様だとか。
 それから、これからお世話させていただくカィミャ様のことも聞いた。
 御父様と同時に御母様も亡くなられたショックで人を信じられなくなったとか。
 そして、人を信用することなく、次から次へと気に入らない人間を排除していっているらしい。
 あと、ボスディア家では6歳までに一般教養を学び、10歳までに高等作法を学び、12歳から社交界デビュー、という構図が出来上がっているそう。
(私は一体、何を教えたら良いのかしら……)


 歩くこと10分、ようやく屋敷の扉の前にたどり着いた。
 ケィシュ様やカィミャ様は馬車を用いるらしい。
 遠くから見ても大きかったけれども、近くで見ても大きい。
 さすが上級貴族、といったところ。
「どうぞ。」
 ロビウスは大きな豪勢な扉の片方を開き、私を中へと招きいれた。
 中に入り、辺りを見回す。
 玄関ホールを一部吹き抜けになっており、天井は高く、そこにはガラス製のシャンデリアが下がっている。
 床には自分の姿が映るほどに磨き抜かれた大理石が敷き詰められている。
 そして、2階へと繋がる中央の階段へは金のレースで囲まれた血よりも深く、鮮やかな紅色のじゅうたんが玄関の扉から階段を抜け、2階へと続いていた。
「すご、い……」
 感嘆の声を漏らしたとき、ロビウスとは違った声質よりも高い声が聞こえてきた。
「ようこそ、ボスディア家へ」
 呆気に取られて屋敷の内部を凝視していた私は声のした方に慌てて視線を移すと、赤光した黒のスーツの女性が立っていた。
「ラティカ様、お部屋へとご案内します」
 その女性はロビウスから私の荷物を引き取ると、2階へと歩いていった。
 返事を返し、その後を慌てて追いかけていった。


 私たちは左右に分かれた廊下の右側を進み、その突き当りの渡り廊下を渡り、別館に入った。
 そこからまた2階へと上がり、奥の一室へと案内された。
「こちらがラティカ様のお部屋になります。中はご自由にお使いください」
「わかりました」
「ご用の際は、室内に備え付けられているテレフォンにて申し付けください。私は、キャムタス=バーバスです。キャムタスとお呼び下さい。では、私はまだ仕事が残っているので」
「いろいろとありがとうございます」
「後ほど第四執事のガリウラが仕事について説明するために部屋を訪れると思いますので、それまでにやりたいことがあるのでしたらお済ませください」
「ええ」
 キャムタスは私の荷物をその場に置き、本館の方へと戻っていった。
 とりあえず、私は自分の荷物を持って自分の部屋になるであろう部屋に入った。


「まぁー……」
 壁は白のバラの壁紙で統一され、天井には玄関ホールよりは劣るが豪勢なシャンデリアが下がっていた。
 私の自室になる部屋は全部で3部屋あり、キッチンがあればそれだけでひとつの家が成立してしまいそうな空間だった。
 寝室に一度荷物を置き、ひとつひとつの部屋をじっくり見て回ることにした。


「ここは、バスルームね」
 その一室はバスとトイレット(洗面所)が一緒になった一室だった。
 バスタブは白い大理石で出来ており、トイレットにはガラスの器にバラが生けてあり、そこからなんともいえない甘ーいバラの香りが漂っていた。
「バラかぁ……ミントの方が私好みかしら」
「では、取り替えさせましょう」
 後ろから高めの男の人の声が聞こえた。
「っ!?」
 私はびっくりして勢いよく振り返ると、私より少し背の高い男性が立っていた。
「ラティカ様、ようこそ。ボスディア家へ」
 その男性はにっこりと人好きのする笑顔を浮かべ、優雅にお辞儀をした。
「これからお世話になります」
「私は第四執事のガリウラ=マスキャと申します。ガリウラとお呼び下さい」
「あなたがガリウラ様なのですね。よろしくお願いします」
「あの……ラティカ様、下の者を呼ぶように私もお呼び下さい」
 ガリウラ様がおろおろとしながら言った。
「でも、キャムタスから伺ったことから推測しますと、私は貴方の部下……ということになると思うのですけれども?」
「それでも、ラティカ様は貴族なのですよっ!?私とは身分が違うではないですか!」
「では、どう呼べばよろしいのでしょうか?」
「キャムタス同様、呼び捨てになさって下さい。部下、と仰られても、ラティカ様はやはり私どもより高貴なお方なのですから」
「私、そういうの、嫌いです」
 ガリウラは私のその言葉にくすりと笑い、扉を開いた。
「それでは、お屋敷のご案内します」
「わかりました」
 ガリウラは私が後ろについてきているのを確認して、玄関の方へと歩いていった。


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