勇者が放つ一筋の光とは

ものかき交流同盟冬祭り2007参加作品

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 東の空に暗雲立ち上りしとき、暗黒の王、地底より目覚めん。
 西の空に緑の星輝きしとき、勇者、現れん。
 この地に伝わる古い言い伝えだ。
 だが、平和の地であるこの地にそのような兆候が現れたことはなかった。
 平和が永遠に続くと思われていたある日。
 西の森のエルフがひとりの人間の赤ん坊を拾った。
 そのとき、西の空に緑の星が輝いていることに気づいたのは、西の森のエルフの長であった。
 ほぼ同時刻、東の王国ではさらに東の空に暗雲が広がっていく様を城の神官たちが目撃していた。
 東の王国では上へ下への大騒ぎになり、国民は一様に戦々恐々と勇者の出現を熱望した。
 だが、東の王国に勇者が現れたという知らせは来なかった。
 慌てた王は、国中に勇者となりうる若者を集めるよう触れを出した。
 国中に散らばった兵士たちは、国一番の力自慢の若者や国一番の知恵を持った若者など秀でている若者を見つけてはきたものの、肝心の勇者になりうる若者は見つけることができなかった。
 それから幾年か過ぎた。
 その間に暗雲は大きく広がりを見せ、平和だった町や村を繋ぐ道には時間帯関係なく魔物が出現し、人や動物を襲うようになっていた。
 そして、東の空に突如、禍々しい浮かぶ城が現れた。
 その日からこの地に太陽が昇ることはなかった。
 かつて平和の地であったこの地は暗黒の地となってしまった。


 西の森の奥深く、秘密の魔法に守られたその先にエルフの村は存在する。
 東の空に暗雲が広がった知らせを聞いたそのときに、エルフの村は外界との接触を閉じてしまった。
 それと同時に、エルフの村と外界の時間の流れも切り離されてしまった。
 平和の地が暗黒の地となった頃、エルフの村ではひとりの人間の少年が供に精霊魔法に長けたエルフを連れ、外へと旅立とうとしていた。
 初めて外の世界へと出た少年は驚愕した。
 エルフの村では光が満ち溢れ、皆が笑顔で過ごしていた。
 だがしかし、外の世界は常に暗く、人々の表情も沈んでいた。
 少年とエルフはひとつの村を越え、ふたつの町を越え、いつつの森を越えた。
 少年とエルフが東の王国にたどり着くまでに、西の村々や町からエルフを供だった勇者の噂が広がり、東の王国は勇者とエルフを今か今かと待ちわびていた。
 少年とエルフはついに東の王国へとたどり着いた。
 少年とエルフは東の王国に入るや否や国中の人々から熱烈な歓迎を受け、王のもとへと連れていかれた。
 王は少年とエルフにこの地に再び平和を取り戻して欲しいと涙ながらに訴えた。
 そのためならわが国はどんな助力も惜しくないと。
 少年はエルフと相談し、国一番の力自慢の若者と国一番の知恵を持った若者を仲間にすることにした。
 少年は新たな仲間と共に、暗黒の王が目覚めたとされる地底へと向かった。


 少年たちは地底を通り、暗黒の王がいるとされている東の空に浮かんでいる城の前までようやくたどり着いた。
 少年たちは互いに顔を見やり、最終決戦を前に大きく互いに頷きあい、城の扉を開いた。
 中は凍るように静まり、一直線に廊下が広がっていた。
 少年たちは周囲に気を配りながら、慎重に廊下を進んでいった。
 廊下の先には大きな木製の扉が存在を主張していた。
 少年はひとつ深く息を吐き、勢い良く扉を開いた。
「暗黒の王よ、覚悟しろッ!」
「フハハハハ。勇者よ、よくぞここまでたどり着いた。倒せるものなら倒してみろォ!」
 暗黒の王の言葉を境に、激しい戦いが始まった。
 だが、しかし、それも暗黒の王の少年に放った渾身の一撃で終わった。
「ウグゥ」
 暗黒の王より放たれた一撃で少年の体は大きく跳ね飛ばされ、床に激しく打ち付けられた。
 それと同時に、暗黒の王は少年の腹へと足を振り下ろした。
「起きろォ!!」
「……へ?」
「起きろォ!!」


「起きろっつってんだろうが」
「ぐえ」
 思わずカエルが潰れたような声が出てしまった。
 俺は今、思い切りお腹を踏まれている。
「朝だぞ。お寝坊な弟を起こしてやるなんて、なんて素敵なお兄様なんだ」
「てめぇッ、人の腹踏んでおいて何が素敵だバカヤロー!」
「うるせぇっ! 早く飯食え、飯!」
「……暗黒の王め」
「あ? 今何か言ったか?」
「いいえ、なんでもございませーん」
「早く着替えて降りてこいよ」
 踏まれた腹をさする俺は窓から差し込んでいる眩しい太陽の明かりに目を細めた。


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