光の道をならんで

ものかき交流同盟聖夜祭2006参加作品

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 自宅がある住宅街から南に少し歩いたところに、ちょっとした広場がある。憩いの広場と称されたその場所には並木通りが東西へ広がっている。今年も冬至を過ぎた頃からイルミネーションで飾られ、夜は幻想的に青や白の光の道が出来上がる。並木通りを覆っているアーケードからは一定の間隔を持って、そりを引いたトナカイやプレゼントを抱えているサンタのイルミネーションがぶら下がり、道行く人々を見守っていた。ここを好きな人と歩くことが、今のあたしの夢だったりする。
 クリスマスまであと一週間。結構差し迫ってきている。それだと言うのに、あたしはまだ誘いたい人を誘えずにいた。
 今日は地元からちょっと遠出してきて、友人の買い物のお供だ。思わず口ずさんでしまう有名なクリスマスソングをバックグラウンドミュージックに、あたしたちはクリスマス雑貨を手に取り、悩んでいた。
「ねぇ、深紅。どっちが良いと思う?」
 今、あたしがお供している幸嶋さやかが右手にミニダンシングサンタを持ち、左手に歌うミニサンタを持ち、首を傾げる。
「あたしの趣味じゃ、断然ダンシング」
「じゃあ、歌うサンタにしよーっと」
 なんて軽やかに言い放ち、ミニダンシングサンタを棚に戻し、スキップするかの如く、楽しげにレジへと向かった。


「……あたしに聞く意味ないじゃん」
 買い物もあらかた終わり、あたしたちは行き着けカフェに落ち着いていた。店内はポップでカラフルな色調だけれども、先ほどからしっとりと落ち着いたオーケストラ仕様のクリスマスソングが流れている。
 先ほど出た言葉は、さやかが二択で出してきた買う物候補を、あたしの趣味で選ぶと、必ずその反対の物を購入していたから。
「あら、そんなことないのよ。だって、深紅の趣味と彼の趣味、正反対なんだもの」
 けろりと言ってしまうさやかに妙に納得してしまうあたし。でも、そんな簡単に納得なんか、してやらない。
「それなら、彼氏さんと買い物行ったら良いじゃん」
「まあまあ。今日急に休みになって、掴まったのは深紅なんだから。文句言わない言わない」
「むー」
 頼んだマンゴーティーを飲みながら唸っていると、さやかの携帯電話が騒がしく震え、七色に光った。さやかは慌てて開き、画面を見つめると、頬が緩んだ。
「……仕事終わったんだって! じゃ、私は彼と合流するねっ!」
 なんて言葉と自分の分の代金を残し、さやかは走り去っていった。
「友情よりも愛情かよ……」
 わかりきっていたことだけれども、思わず口に出てしまう。きっとこの場にさやかがいれば、当たり前じゃないのと軽く諭されていただろう。そんなさやかを思い描き、ほんのり笑いがこみ上げてくる。
 背もたれに寝かせていたバッグが背中を伝って振動する。
 慌ててバッグを開け、携帯電話を取り出すと、メール着信を知らせるように画面が点滅している。それも、あたしが特定の人に設定したその色に。
「うそ、桂太郎……?」
 震える手で携帯電話を開ける。画面に記されている文字は……。
『クリスマス、会えないか?』
 あたしの返事はもう決まっている。
『行きたいところがあるんだけど、つきあってくれる?』


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