嘘をつかなければ、君を守れない

5周年記念小説

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「あなたなんて、キライ」
 目の前でつぶやく君。
「ああ、僕もキライさ」
 自分の心をキズだらけにしてつぶやく僕。
 一体どれだけ嘘をつけば、君を幸せにできるのだろうか。
「もう、二度と会わない……!」
 涙を含んだ揺れた声でつぶやく君。
「ああ、二度と会わないね」
 ダレカ、タスケテ。
 僕の心から血が流れ出す。
 でも、きっと、君を幸せにできるのは、僕じゃないから。
 僕にはその資格がないから。
 だから、悔しいけれども。
 悔しいけれども、お似合いのアイツが幸せにしてくれるから。
 君が幸せに微笑むのならば、僕は僕自身が壊れる事を厭わない。
「私のこと、スキじゃ、なくなったの……?」
 そんな顔しないでくれ。
 僕の心が揺らぐじゃないか。
「……ああ」
 僕はまだ君がスキなのに。
 こんなに、アイシテルのに。
 でも、それを伝えることはできない。
 もう、手を離してしまったから。
 君が去っていく姿を見つめて、視界が歪む。
 君の姿が僕の視界から消えるのをひたすら待つ。
 手の平に爪が食い込もうが、血が流れようが、関係ない。
 僕は耐えなければならないんだ。
 僕は君が世界で一番イトオシイから。



 君が僕の前から消えた。
「あああああ――ッ!!」
 言葉にならない感情を、漸く解放する。
 うな垂れて、跪いて、振り上げた拳を地面へと叩きつける。
 幾度叩きつけただろうか。
 地面に血痕が滲む。
「ごめん、ごめん、ごめん……!」
 もう届かない君への謝罪。
「スキなんだ、アイシテルんだ、君だけなんだ……ッ!!」
 これも君には届かない。
 そして、もう二度と君には囁いてはいけない禁忌の言葉。
 僕は君だけを――。
「その言葉、ウソじゃない、よね?」
 聴こえるはずの言葉が頭の上から降ってくる。
 呆然と顔を上げると、切なく顔を歪ませた君。
「あなたの本心、だと思って、いい、よね?」
 まさか、君に聴かれていたなんて。
「あなたがどうしてそうしたのか、気付いてるよ。大丈夫、私がいるから……一緒に乗り越えていこ?」
「……明日の暮らしさえも保障できない僕と? 本気で言ってるのか?」
 君は誇らしげに、笑った。
「当たり前じゃないの。女はここぞ、というとき、強いのよ? あなたが私を支えてくれるように、私もあなたを支えること、できるわ。だから――」



 嘘をつかなければ、君を守れないと思っていた。
 でも、そうじゃなかったんだ。
 嘘をつくまでもなく。
 僕は君を、君は僕を守っていたんだね。
 そうして僕らはこれからを生きていく。
 これは、ふたりで約束したことだからね。
 世界で一番いとおしい君へ――。


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