おとなになるとき

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 風と共に花が揺れる。
 さらさらと、肩ほどまでに伸びた青緑の髪を揺らしながら、メルヴィは風を楽しんでいた。その隣には相棒のシエルが伏せている。
 村の景色は灰色の厳しい季節から緑芽吹く目覚めの季節へと変わっていた。
「メルはことしがさいごだね」
 シエルが気持ち良さそうに目を細めた。
「そうだね」
 メルヴィの視線の先では大人たちが芽吹き祭りの準備をしていた。芽吹き祭りは雪が解け切り、花々が咲き始めた頃に始まる。長く厳しい灰色の季節を乗り越えることができたことを喜び合うもので、大人たちは変わらず畑や魔獣たちの世話をしているその横で、子どもたちが大人の仮装をして大人たちの代わりに踊りながら村の中を回っていく。
 今年十になるメルヴィは最後の芽吹き祭りになる。来年からは大人たちに混じり、年少の子どもたちの祭りの様子を眺めることになる。
「さみしい?」
 まんまるの瞳をこちらに向けてシエルが問う。メルヴィはやや考えた。
「さみしくないよ」
「ほんとう?」
「ずっとああやっておどっていたいけど、みんなおとなになっていくんだもん」
 メルヴィを見つめていたシエルは視線を大人たちへと戻した。
「たしかにね。メルはどんなしゅごしゃになるんだろうね」
「ね。シエルといっしょならどんなことでもできるよ!」
「ボクをぜったいはなさないでね」
「こっちのセリフ!」
 ふたりは笑いあい、咲き乱れる花畑から準備している大人たちへと駆け寄っていった。

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