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雪がちらつく十二月。
マフォリナたちがいるこちらの世界でも雪が降る。
あたしは今、いつも屋敷にこもりっぱなしなマフォリナを引っ張って、寒空の下ピクニックをしている。
まぁ、これもマフォリナの術のおかげでまったく寒くないんだけどね。
「あともう少しで終わりそうだったのに」
あたしにとっては楽しい楽しいピクニックも、マフォリナにとっては全然楽しくないみたい。
久しぶりのお出かけなのに……
さっきからずぅーっと文句ばかり並べているマフォリナに段々と悲しくなってきて、それがいつの間にか怒りへとすりかわってきた。
「そんなに自分の研究が大事なら戻ったらいいじゃないっ! さっきから文句ばぁーっかり! マフォリナは楽しくなんかないんだね!!」
浮き上がってくる言葉を吐き出す。
「り、リカ……?」
マフォリナは呆然として、どうしてあたしが怒ってるのかわかってないみたい。
「……あたし、だけなのかな」
ポツリと言葉がころがった。
なんだか涙も一緒にころがりそう。
「え?」
「楽しいの、あたしだけなんだね……」
そこまで言ってようやく気付いたらしい。
「リカ、そういうつもりじゃなくて……ッ!」
「じゃあ、一体どういうつもりで言ったのよッ!?」
もう完全に涙声。
もう、知らないっ!
「マフォリナなんて知らないッ! クリスマス一緒に過ごしたかったけど、もういいッ! あなたなんか、ダイッキライ!!」
マフォリナに叩きつけるように叫び、マフォリナのいないところを探して走って走って走りまくった。
気がつくと、樹に囲まれた場所まで来ていた。
どうやら、森っぽい感じ。
「え、もしかして……迷子?」
右を見ても、左を見ても、樹だらけ。
「こ、ここ……どこ!?」
パニックになってきて、周りを必死で眺めている間に、あたしはいつの間にかどの方向から来たのかすらわからなくなっていた。
「や、ヤバいんじゃないの、これ……」
今現在の状況を把握した後は、頭の中が真っ白になった。
自然と浮かんでくる涙。
立っている力も抜けて、地面に崩れ落ちるように座り込んだ。
「あた、あたし、このまま帰れ、ないの? そ、んなのヤダよぉ……」
最悪な状況が頭に浮かんできてしまい、ついに地面に突っ伏して泣き叫んだ。
「リカ!?」
頭上からマフォリナの慌てた声が聞こえた。
泣きすぎで幻聴まで聴こえるようになっちゃったんだ……
「リカ、どうした!? どこか怪我したのか!?」
今度は肩をがしりとつかまれ、おまけに前後に揺さぶられた。
「え、マフォリナ……?」
「当たり前だ。それでどうして泣いていた? どこか怪我をしたのか?」
何故泣いていたかもわからない、なんて鈍感なのよ……
でも、マフォリナってそうなのよね。
自分の研究以外はてんで無頓着。
あたしのことはおろか、自分の事でさえ、気を使わない。
そんな人を好きになったあたしの負けかなぁ……
「……リカ?」
何も言わないあたしに訝しげに聞いてくる。
「大丈夫だよ。怪我は、してない」
「怪我、は?」
「ちょっとここが痛かっただけ」
そう言って胸に手を当てる。
「リカ、僕は研究ばかりな男だ。何か思うことがあるのなら、遠慮なく言ってくれ。良いことも……悪い、ことも」
あたしは頷き、言葉をつむごうとした。
でも、この先の言葉はもう少しだけ暖めることにしよう。
マフォリナ、大好き!
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