Double Moon
ダブルデート

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 街並は気温が冷えていくごとに、輝き華やいでいく。
 最近では夕方になるともう、暗くなっていた。
 私たちは今、イルミネーションで綺麗に飾りつけられた並木道を歩いている。
 隣には悟がいて、もう寒さなんてどうでもいいほど幸せ。
 そして、前には……
「ねぇ、のぞみ。フランス料理とか大丈夫よね?」
「うんっ! 今日のために頑張って稼いだもんねぇー」
 ひろこ姉ちゃんはふふ、と笑いながら、修吾さんに腕を絡める。
 お姉ちゃん、幸せそう……
 知らず知らずの間に私まで嬉しくなって、悟の腕にぎゅーって抱きついた。
「お嬢ちゃん、見せ付けるのもいいが、それは俺たちと別れてからにね」
「んな!?」
 相変わらずの修吾さん。
「ム……じゃなかった、修吾。いい加減、望をからかうのやめてくれ」
 やや脱力気味に頼み込む悟。
 さっきから、私と悟を交互にイジり倒して遊ぶ修吾さん。
 そして、そんな悟に意味ありげに微笑む修吾さん。
「修吾、それ以上やめてあげなさいな」
「ひろこがそう言うならそうするよ」
 まさに鶴のひと言。
 ひろこ姉ちゃんのひと言でなんとか難を逃れた。


 並木道を進んだ先に、目的地は建っていた。
 あらかじめ予約していたのか、到着するとすぐに夜景の綺麗な席へ案内された。
 そして、テーブルの上には各自の名前が記されたプレートが、椅子の前に置いてあった。
 食事中は花が咲いたようにおしゃべり。
 内容はあちらの世界について。
 ひろこ姉ちゃんだけ行ってないんだよね。
「あぁ、あたしも行ってみたいなぁ……」
 なんてポツリともらしたら、修吾さんがものすごい剣幕で却下してた。
「唯でさえ、こちらの世界だけでも敵になる野郎どもが多いのに、そんなの却下だっ!」
 って言って、ね。


 思い出して、思わず笑いがもれる。
「どうした?」
 ひろこ姉ちゃんと修吾さんと別れて、悟と帰路の最中。
「ひろこ姉ちゃん、幸せそうだったねぇ」
「そうだな。今頃一番幸せなんじゃないか?」
 悟の何か物知り顔で言ってくる。
「え、どういうこと?」
「プロポーズするってさ」
「えぇっ!? 本当に!? す、すごぉーい!」
「あぁ、待ち合わせのときなんかずっと緊張で震えてた」
 ふ、震えていたって……
「ほら、あれだろ? 向こうの世界に行ってる間、独りにさせてしまったわけだし。捨てられる、ってこともあるだろうしな」
 なんだか夢見心地からシビアな現実に叩き落されたように感じた。
「でも、ひろこ姉ちゃん待ってたよ!?」
「だから言ってるだろ? 今頃一番幸せなんじゃないか、って」
「あ、そっか。そうだよね! ひろこ姉ちゃんのウエディングドレス姿かぁ……綺麗だろうなぁ」
「修吾の隣にいたらいつでも綺麗なんじゃないか?」
「どうして?」
「女って恋をしたら綺麗になるだろ? その愛しい人が隣にいるんだから……」
「わ、私も綺麗になったッ!?」
 思わず、前のめりになる。
 そんな私に悟はふ、と笑い、抱きしめてきた。
「……当たり前じゃないか」
 耳元で囁かれ、真っ赤になる私。
「きっと、望のウエディングドレス姿も綺麗だな。……そのとき、横に立っていられるのが俺だといいけどな」
 真っ赤を通り越して、嬉し涙で景色がかすむ。
「う、嬉し……ッ」
「なんだ、望は泣き虫だなぁ」
 そう言いながら、零れ落ちた涙を拭ってくれる。
「だって、悟もそうやって一緒にいる未来を見てくれてるって知って……ッ」
 感極まってまたこぼれる涙。
 悟は穏やかな目で頭を撫でてくれる。
 悟、ずっと……ずぅーっと一緒にいようね。


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