Double Moon
もうひとつのはじまり

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 目を覚ませば、テントの中だった。
 外から、数人の男の声がする。
 ここからじゃ何言ってるのか聞き取れないな……。
 一番渋い声色の男が何か言い、テントの中へと入ってきた。
「目が覚めたのか。気分はどうだ?」
「大丈夫だ。アンタが助けてくれたのか?」
 起き上がり、声を発すると、その男は一瞬驚愕し、急に笑い出した。
「お前、男だったのか! 髪が長いから女かと思ったぞ」
 確かに、肩に届く程度まで伸びてるが……普通、間違えるか?
「そういえば、ここは一体どこなんだ?」
「ここはディアナ。ま、ちぃっとばかし治安が悪いが、快適だぞ」
 ディアナ……? 外国か? いや、でも言葉は普通に通じているから違う、か。
「目が覚めたのなら、この液体で髪の毛の色を変えろよ」
「? どうしてだ?」
「この地方で黒い髪ってのは珍しいからな。奴隷商人に拉致られるぞ」
「そりゃ、怖いな。色は自分で決められるのか?」
「もちろん。自分の好みの色を思い描きながら液体を頭から被るんだ。10分もすれば、色が変わってくる」
「へぇ……。ところで、日本って国は知ってるか?」
 男の目が点になる。
「ニ、ホン? どこだ、それ?」
「いや、知らないならいい」
 もしや、これは異世界、というものなのかな。とくれば、面白い。丁度、あの世界から抜け出したかったんだ。
 ……ひろこは悲しんではいないだろうか。
「そういや、お前の名前は?」
 異世界なら、異世界らしい名前を名乗ってやろうか。
「……ムィだ」
「じゃあ、ムィ。毛の色が変わった頃に呼んでくれ」
 男はそう言い、液体の入った瓶を置き、テントから出て行った。
 オレは瓶の蓋を開け、液体を見つめる。
「好きな色を思い描いて被るんだよな……」
 一番好きな色、鋭い光沢を放っている青銀を思い描き、液体を被った。


 終わったことを知らせたいが、そういやあの男の名前、聞いてなかったな……。
「おい、もう終わったか……って、うおぅ!」
「ああ、アンタか。この後どうすればいいんだ?」
 男はオレの髪から目を離さずに続ける。
「あ、ああ……外に井戸がある。そこで液体を流すんだ。それにしても……また凄まじい色にしたもんだな」
「オレのトレードカラーだからな」
 立ち上がり、テント入り口へと向かう。
「そういえば……アンタの名前はなんて言うんだ?」
「バディスだ……って名乗ってなかったか?」
 豪快に笑う男――バディスを追って、テントを出た。
 外に出た瞬間、周りにいた奴の視線がオレの頭へと注がれた。
 オレは見世物じゃねぇっつうの。
「まだ冷たいだろうが我慢してくれよ」
 そう言うなり、バディスはいきなり頭から水をぶっ掛けてきた。
「お、おいっ。流すくらい自分で流せるって……つめてっ!」
「はは、遠慮すんなって」
 バディスは上機嫌でオレに水をぶっ掛け始めた。
 よーし、覚えておけよー。


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