1年365日のお題
挑戦中
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馬子にも衣装 1本目
「馬子にも衣装とはこういうことを言うんだな」
私のウェディングドレス姿を見てぽつりとこぼした。
「お兄ちゃんったらひどいっ! お嫁さんに向かってそんなこと言うなんて! さゆり姉さん、綺麗だよ!」
これから妹になるあきちゃんがまぶしそうに目を細めながら笑いかける。
「ふふ、ありがとう」
私も返して笑いかける。あきちゃんの後ろにいる旦那さまは居心地悪そうに立っている。
「ほら、もう時間だから会場に行きましょう。さゆりさん、とっても綺麗よ」
「ありがとうございます」
「また後でね!」
あきちゃんはお義母さんと一緒に控え室から出ていった。部屋の中が静かで穏やかな空気が流れる。
「ところで、他には何も言ってくれないわけ?」
やっと近づいてきてくれた旦那さまに一言。
「……綺麗だよ」
そう言いつつ、エスコートの手を差し出した。
「よろしい」
私は満足げに微笑み、彼の手を取って立ち上がった。
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馬子にも衣装 2本目
不相応なくらい大振りの大剣を腰から下げ、まだ着慣れていない鎧に身を包む。隣には自身よりも大きいんじゃないかと思うほどの大きな袋を背負った幼馴染。
僕たちは今日、この生まれ育った村から旅立つ。胸いっぱいの希望とほんのちょっぴりの不安を抱えて村の入り口を出た。
「出ちゃった、ね」
村を出て少し歩いた頃、幼馴染がぽつりと呟いた。
「ああ」
僕は前だけを見つめ、頷いた。
いつか。歩くたびにガチャガチャと鳴る金属音にも慣れて、腰から下げている大剣が愛剣と呼べる程に手に馴染む日が来るのだろうか。
僕たちは今まさに始まった新たな人生の一歩を踏み出したところだった。
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馬子にも衣装 3本目
学校から帰ると見慣れない衣装箱が居間に置かれていた。
「お母さん、これなぁに?」
台所にいるお母さんに指差して聞くと、お母さんが嬉しそうに出てきた。
「中学の制服が届いたのよ」
「本当っ? やったぁー!」
背負ったままだったランドセルを放り投げ、衣装箱を開けると中学の制服が綺麗に折りたたんで入っていた。
「ほら、合わせてみましょ」
お母さんに促されてあたしは制服に着替えた。
制服を着て、鏡の前でくるりと回ってみる。なんだかあたしじゃないみたい。
「ふふ、やっぱり馬子にも衣装ね」
後ろで見ていたお母さんが笑いかけてきた。
「まごにも衣装?」
「そうよ。それっぽい服を着たらそれっぽく見えるってこと」
「! 中学生に見える?」
首をかしげてお母さんに聞くと、にっこり頷いてくれた。
「見える見える」
「やった! お父さんにも見せてあげよーっと」
「今は脱いどきなさーい」
お母さんに言われてしぶしぶ制服を脱いだ。もちろん、皺がつかないように丁寧に。
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馬子にも衣装 4本目
「王子、本当にわかっていますか?」
私の前をスタスタと歩く王子は鬱陶しそうに振り返った。
「わかってるって。それよりもお前もその王子ってのをヤメロ」
半目で睨んでくる王子をやり過ごして縋り付く。
「そんな!? 王子を呼び捨てなんてできませんよ!」
「ならせめてお坊ちゃんだとか、貴族の子息っぽい感じには呼んでくれないとバレるじゃないか」
「うぐ……!」
真っ当なことを言われてしまい、私は頷くことしかできなかった。
「わかりました。……お坊ちゃん」
「よろしい。さーて、遊ぶぞぉー!」
その姿は貴族の放蕩息子が市場で遊ぶ姿にしか見えなかった。
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差し入れ 1本目
「ねぇ、今から何かお菓子作らない?」
それはみどりから出された突然の提案だった。
今日は昼間から友人のみどりと葵の二人が家に遊びに来ていた。三人で恋愛話や人気の歌手の話や取り留めのないことを話していた。
そんな時、みどりの携帯電話にみどりの彼氏からメールが入り、先の発言が出た。
「で、いきなりどうして?」と葵が的確に突っ込む。
「今どうしてるのって聞いたら、渡辺くん家でゲームしてるって返ってきてね」
うんうん、と頷くあたしたち。
「それで、みどりが作ったお菓子食べたいって」
「は?」
葵とあたしは同時に言葉を発していた。色々と突っ込みたい。
「一体どう文脈が繋がってるの?」
「だから、今からお菓子作らない?」
まさか振り出しに戻るとは思わなかった。みどりはもうすっかり作る気になってるし、葵はお手上げとばかりにこちらを見てくる。
「それで? 材料は?」
財布を持って立ち上がると、葵も勘付いてたのか財布をその手に持っていた。それを見て目を輝かせて喜ぶみどりを落ち着かせ、あたしたちは買出しに出かけることになった。
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差し入れ 2本目
近くのスーパーでみどりの指示の下、材料を買ったあたしたちは再びあたしの家へと戻ってきた。そして、キッチンテーブルに買ってきた材料を並べて眺める。
「それでこれで何を作るの? カップケーキか何か?」
「うん、チョコチップマフィンを作りまーす!」
チョコチップの袋を取り出しての高らかな宣言でお菓子作りがスタートした。
みどりが作り慣れているからか、みどり主体で滞りなく作業が進んでいった。その間、葵やあたしは時々みどりが指示してくる作業をこなしていた。
「葵ちゃん、混ぜてる中にこれ入れて」
「はーい」
「春香、カップ並べておいてー」
「りょーかいっ」
「カップが十二個あるから、ひとり四個ずつ入れてこうね!」
全部自分で入れたら良いのに、みどりはわざわざ分担制にしてくれた。そしてあたしは否応なく現実と向き合うことになる。
「だって、春香は渡辺くんに手渡さなきゃねーっ」
「あ、付き合い始めて初めての手作りお菓子ぃ?」
葵がわざとらしくにやつきながら、腕で押してくる。
「ほとんどみどりが作ってたけどね」
そんな負け惜しみもふたりには通じてなく、にやにやにこにこあたしを見てくる。
「もーうっ、分かったわよ!」
視線に耐え切れなくなって、ひったくるようにみどりから生地の入ったボールを奪い、こぼれないようにカップに移し入れた。上からチョコチップをまぶしてオーブンに入れ、あとは焼きあがる時間を待つだけになった。
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差し入れ 3本目
焼きあがるまでの間、あたしたちは再びあたしの部屋へと戻ってきた。そして不意に湧き上がった疑問を口にした。
「ところで葵の分は誰にあげるの?」
「へ? あ。もしかして春香は知らな、かった?」
突然の葵の発言に葵とみどりの顔を交互に見る。
「えっ!? な、何がっ!?」
「葵ちゃん、敦くんと付き合ってるんだよ?」
みどりが何を今更的に教えてくれた。
「知らなかった……。い、いつから!?」
「んー、アンタたちと仲良くなる前から?」
「そんな前から!? てか、なんで今なのー!?」
「やー、言うタイミングがなかったっていうか、みどりみたいに気づいてくれるかなぁーって……」
「気づけるわけないじゃん! え。ってか、みどりは気づいたの!?」
みどりはお茶を飲みながら頷いた。
「マジで……あたしだけ知らなかった……?」
「そんな落ち込まないでよ。なんでか上手い具合に仲良しグループ同士でカレカノになったんだし」
「うー、喜んだら良いのか悲しんだら良いのかわかんないよー!」
みどりに頭を撫でて慰められるけれども、何だか複雑な気分だ。そしてちょうど良いタイミングで台所から焼きあがりを知らせる音が聞こえた。
「ほら、出かける準備するよ」
葵の掛け声に二人はかばんとコートを持って部屋を出る。
「……はーい」
あたしも同じように二人の後をとぼとぼとついていった。
台所に入ると、なぜか可愛くトッピングされた袋を手渡された。
「いつの間にこんな可愛く……?」
「春香が降りてくるまでにしておいたよ」
みどりが呆然とするあたしに教えてくれた。
「えっと、ありがとう?」
「どういたしまして! さ、行こう」
みどりと葵に手を引かれて、後ろ髪惹かれる思いで家を出た。
「あたし……こんな可愛いキャラじゃないよ」
ぽつりと呟いたら葵が振り向いた。
「だからだよ。春香って恥ずかしがってそういうことしなさそうだし」
「仕組まれた!?」
「仕組んでないけど、いつの間にかそういう流れになったっていうか」
「うんうん。春香ってば、渡辺くんといるとき真っ赤だもんねぇ」
「んはっ」
今すぐ隠れたくなった。恥ずかしくてまともに前を見ることもできない。
「ほらほら、今から恥ずかしがってどうすんの!」
「もう無理ぃー!」
叫んだところで、葵とみどりに脇を固められて引きずられて行くしかなかった。
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差し入れ 4本目
あわあわとしている間に渡辺の家についてしまった。落ち着くためにも深呼吸を繰り返していると、みどりが玄関のベルを鳴らしていた。
「ちょっ、まだ心の準備が――」
「はーい」
心の準備する間もなく、渡辺が家から出てきた。もうどこを向けば良いのかがわからない。
「おお、入れよ」
渡辺の軽い声に気兼ねなく入っていく二人をじと目で睨みつつ、あたしもその後に続く。
「お邪魔します……」
あたしが入るとほぼ同時に玄関が閉まる。
「こ、これ!」
突きつけるように袋を取り出した。渡辺は面食らったような顔をしている。
「みんなで作ったの! ……おすそ分け」
「ありがとな」
すごく優しい声が聞こえ、目の端で渡辺を見てみると、びっくりする位嬉しそうに笑っていた。それを見たあたしも笑っていた。
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お人形 1本目
目が覚めると枕元に大きな紙包みが置かれていた。
「なんだろ、これ」
その紙包みは大きくて、私の体くらい大きかった。
両手で抱えて、持ち上げる。案外軽い。
「ママァ、これおいてあったよ?」
よたよたしい足取りで母親のもとに向かうと、にっこり笑ってこう言った。
「開けてごらん?」
「あけていいの?」
足元に紙包みを置き、丁寧に紙包みをはがしていく。すると、茶色い耳が最初に見えた。
「あー! くまさんだぁー!」
紙包みから姿を現したテディベアを抱きしめた。
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お人形 2本目
隣ん家の幼馴染は二次元から出てきたような容姿をしている。
陶器のような白い肌に、目はくりっとした二重をしている。髪はさらさらの漆黒色をしていて、それでいてぱっつん前髪で程よく伸びたロングヘアー。極めつけは白魚のような手がすらりと伸びている。冬に白い着物でも着ていたら雪女にでも間違えられるんじゃないかと思うほどだ。
そんな彼女を近所の人々は「お人形みたいだ」と称する。
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お人形 3本目
神社の一角で和装した子どもたちが親に手を引かれて歩いていく。七五三参拝と掲げられた看板を見てもうそんな時期かと感慨深く物思いに耽ってしまう。
「こうして並ぶとお人形さんみたいねぇ」
子どもたちを並べ、写真を撮っている親たちが互いの子どもを褒めながら呟いた。
そして私は思う。まさしくあなたたちのお人形になっているじゃないか、と。
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お人形 4本目
森深くに人が滅多に近寄らない洋館がひっそりと建っている。更に洋館の奥深く、一際大きな部屋に老人がいた。老人は手も顔も皺で覆われ、杖なしでは生活できぬほどに腰が曲がっていた。老人はビロードのソファに腰掛け、傍らに座る少女を一心に撫でていた。少女は腰まで伸び毛先をカールさせた金の髪を持ち、空よりも淡い瞳をしていた。白磁のような白い肌はどこまでも透き通り、真紅のドレスがその肌を隠していた。
「お爺様……」
少女が鳴く様に老人を呼びかける。
「私の可愛いドールや。ここにいれば大丈夫だよ」
老人の瞳は今を映しておらず、少女は心の奥で解放の日を切望しながらも、老人の愛撫を受けるしかなかった。
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その姿、様になってるよ 1本目
道場の凛と澄んだ空気が肌を刺激する。その中をあたしは一心不乱に竹刀を振り下ろす。
どれだけの時間が流れたのかわからない。いつの間にか汗が肌を伝い、服までも湿らせていた。
「へぇ」
背後で突然声が聞こえた。振り返ると幼馴染が入り口手前に立っていた。
「……なに?」
道場脇に置いておいたタオルを取り、噴出す汗を拭う。
「様になってるじゃん」
「本当?」
「うん、かっこいい」
「……ありがと」
あたしは汗を拭っていたタオルを置き、再び素振りに戻った。幼馴染はタオルの隣に腰掛け、静かに素振りが終わるまで見守っていた。
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その姿、様になってるよ 2本目
僕が仕えるこの屋敷の庭の一角には馬が飼われていて、ほんのささいな、けれども十分な広さを持った乗馬スペースがある。今、屋敷のお嬢さんが嬉しそうにその乗馬スペースでお父上の愛馬にまたがっている。
「なかなか様になってきましたね」
始めた頃はおぼつかない手綱捌きで僕の肝も冷えていたが、今はもう安心して見ていられる。
「本当?」
お嬢さんはきらきらと眩しい笑顔をこちらに向けてくださる。僕なんかにそんな笑顔見せてはいけないですよ、なんて言えるわけもなく、僕は偽者の笑顔を貼り付ける。
「ええ」
でも、本当はお嬢さんに乗馬なんてお転婆なこと、覚えて欲しくないのが僕の本音なんですけどね。
3/4
その姿、様になってるよ 3本目
稽古場の片隅に自分の場所を陣取る。この場所は鏡も真正面にあるから自分の演技のチェックもしやすい。劇団員大人気の場所だ。
ストレッチを終え、発声練習も終えた。台本はなんとか頭の中にすべてあると思う。意を決して最初から通して自分の出番の確認をした。
「お。なかなか様になってきたじゃないか」
最後まで終えて一息ついていると、演技を見ててくれたのか、先輩が労ってくれた。
「本当ですか!?」
「ああ。最初は危なかったが、この調子なら大丈夫そうだな。頑張れよ」
先輩はひらひらと肩越しに手を振って自分の場所へと戻っていった。その背に向かってあたしは最大の感謝を表した。
「ありがとうございますっ!」
そして確かな手応えを胸に、鏡の向こうの自分と向き合った。
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その姿、様になってるよ 4本目
「てやーぁ!」
「いてっ」
息子の気合の掛け声と共に、ポコンという音が頭から鳴った。後ろを振り返ると、新聞紙で作った兜を被り、新聞紙で作った刀を携えた息子が仁王立ちをしていた。
「おお、様になってるなぁ! ちょっと待ってろ、お父さんも今刀作るから!」
そう言って新聞紙を探して周囲を見回すと、息子がずずいと刀を差し出してくれた。
「おとうさんのぶん、あるよ!」
息子から刀を受け取り、構える。
「よしっ、かかってこい!」
戦の幕が今まさに切って落とされた。
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切り替えできてる?
1本目
得体の知れない黒い影が後ろから追いかけてくる。どれだけ逃げても、どれだけ走っても距離は広がらず、むしろ縮まっているような気がする。それでもひたすら前を向いて逃げる。
逃げて逃げて逃げて逃げて、ふと足音が消えた気がした。様子を伺うように後ろを振り向くと、そこに大きく口を広げた影がいた。
「うわああああああッ!!」
気づいたら教室の中で、叫び声をあげて立ち上がっていた。
「あれ……夢?」
周囲を見渡すとクラスメイトたちの顔がこちらを向いている。なんだ夢だったのかと安堵した。
「しかも今は授業中だな」
頭上から声が聞こえた。そろそろと見上げるとこめかみをぴくぴく震えさせた担任が立っていた。目が鬼のように釣りあがっている。
「あとで職員室まで来い!」という声と共に教科書でビシッと頭をはたかれた。
3/5
切り替えできてる?
2本目
返ってきた休み明けテストを見て呆然とする。なんだこの点数は。
「いつまでも休み気分でいるからよ」
横から辛らつな言葉が飛び込んできた。声をした方を見るとにんまりと笑われた。彼女がこんな笑い方をするときは、確実に上機嫌なときだけだ。
「そんなこと言ったって仕方ないだろ! 休みがあまりにも楽しすぎるのが悪いんだッ!」
「はいはい。せいぜい赤点続きで留年食らわないように頑張りなさいよ」
「うぐ」
何も返す言葉が出てこない。今の状態じゃあ確実にデッドゾーンだ。俺は心を決めた。
どこから見ても見事な土下座を彼女の前に披露する。完璧だ。
「友香さま! 俺に勉強を教えてくださいいいい」
返事が返ってこない。き、きっとあまりの完璧具合に言葉を失っているだけに違いない!
そう思って上目遣いに様子を見たら、そこには誰もいなかった。
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解せない、絡まった糸
いつからこうなったのかわからない。けれども、確実に僕たちの終わりは始まっていたんだと思う。
なぜか君はもう僕のことを見ていないと愕然と思ったことがあった。でも、そのことを言ったとしても君は理解も納得してくれないと思う。
ずっと君を見ていたかった。ずっと君に見ていて欲しかった。けれども、君はそんな僕の願いを知らずに笑うんだ。前はその笑顔が僕のためだと思っていたけれども、誰のためかは僕はもうわからない。
だから僕はもう君にお別れを言うんだ。泣かないで、縋り付かないでくれ。
もう終わっているんだ。
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ゴミ箱目掛けて 1本目
誰が始めたのかもう誰も覚えていないと思う。
こういうことは一人がやり始めると、自然と二人目が現れるんだ。
「よっし! オレのほうがケンタより遠いぜ!」
トオルがケンタより一歩後ろからゴミ箱にゴミを投げ入れて、見事入れることに成功した。それを見たケンタがさらに一歩下がった。
「なにぃ!? じゃあ俺はここからだっ!」
しかしケンタの威勢はむなしく、ケンタの放った一投はゴミ箱のほんの手前に落ちていった。
「ふ、ここで僕の出番だな」
今まさに最高の舞台が用意されたと思ったそのとき、不条理にチャイムが鳴り響いた。
「ほらほら授業が始まるよー」
散らかったゴミはすべからく片付けられ、誰が遠くからゴミ箱に投げ入れられるか大会は幕を閉じた。
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ゴミ箱目掛けて 2本目
何故か家の前に綺麗なお姉さんが立っていた。今は学校から帰ってきたところで、誰を待っているんだろうかなんてのん気に考えていたら声をかけられていた。
「あの……」
「……え?」
え、俺ですか?
正直そんな言葉が頭をよぎった。
そんな俺に対して彼女は小さな箱を差し出した。その箱は彼女を連想させるように可愛いピンクのリボンが結ばれていた。
「これ……受け取ってください」
「え、良いんですか?」
「はい……。あの、それじゃあ……!」
彼女は俺に小箱を押し付けるように渡すと走り去っていった。
「……なんて可憐な子なんだ」
彼女の背中を見ながらぽつりと呟いて、慌てて部屋まで駆け上がった。
脈動する鼓動を静めて、小箱を前に正座をする。これは今開けてしまった方が良いんだろうか。
それからどれくらい小箱を見つめていただろうか。薄暗かった部屋がいつの間にか真っ暗になっていた。
「……よし!」
意を決して小箱のリボンに手をかける。するするとリボンを解く。
「うわぁぁぁぁぁあああッ!!」
リボンを解くと同時に小箱から人形が飛び出してきた。ちょっと今は何が起こったか理解できない。
呆然とした感情のまま、人形を見ると手にご丁寧に「ばーか」と見慣れた文字で書かれた手紙を見つけた。
「あの野郎ぉぉぉおおおお!!」
小箱をむんずと掴み、そのままの勢いでゴミ箱に叩き付けた。俺の純情を返しやがれッ!
それが隣の幼馴染からだと気づけなかった俺はきっと明日から笑いものにされるんだろう。
3/7
ゴミ箱目掛けて 3本目
鼻をかんだティッシュをちょっと遠くにあるゴミ箱目掛けて投げてみる。なぜか手前で落ちる。
取りに行って再び戻って投げる。けれどもゴミ箱を遠く追い越した先に落ちる。
こうなってくると意地だ。再び取りに言ってまた戻る。そして投げるを繰り返す。どうにも入ってくれない。
そしてはたと気づく。取りに行ったついでに捨てれば良いんだと。
3/7
ゴミ箱目掛けて 4本目
頭に湧いた案を端から書きなぐっていく。
しかし、気に入らず紙ごと丸めて後ろのゴミ箱へと見ずに投げ入れる。
そんな作業をかれこれ二時間ほどしている。
ふと思い立って後ろを見てみると、紙くずがゴミ箱から溢れて山を作っていた。
「いつの間にこんなことに……」
しばし唖然と見つめた後、ゴミ袋を引っ張り出してきたのは言うまでもない。