1年365日のお題
挑戦中
2/11
君を動物に例えると
彼女は気まぐれだ。彼女の気が向いたとき、彼女は僕の前へと現れる。
今日もそんな日だった。
学校の帰り道、角を曲がったらいつもの場所に彼女がいた。彼女はいつものようにグレーの制服だった。僕は黒地の制服だから彼女とは別の学校ということになる。
彼女との出会いは印象的で、今日と同じ学校の帰り道で突然声をかけられた。「君は犬みたいだな」と。そのときの僕は面食らってしまい、何も返すことができなかった。
それから彼女と僕の帰り道の関係が始まった。と言っても、毎日会うわけではない。本当に彼女の気が向いたとき、いつもの場所にいるのだ。
先を歩いていた彼女が突然くるりとスカートを翻しながら振り返った。
「君は本当に犬みたいだな」
「そういう君こそ猫みたいだ」
そう間髪入れずに伝えた。
彼女は虚を衝かれたような顔をした後、ふんわりと笑った。
今日もそんな日だった。
学校の帰り道、角を曲がったらいつもの場所に彼女がいた。彼女はいつものようにグレーの制服だった。僕は黒地の制服だから彼女とは別の学校ということになる。
彼女との出会いは印象的で、今日と同じ学校の帰り道で突然声をかけられた。「君は犬みたいだな」と。そのときの僕は面食らってしまい、何も返すことができなかった。
それから彼女と僕の帰り道の関係が始まった。と言っても、毎日会うわけではない。本当に彼女の気が向いたとき、いつもの場所にいるのだ。
先を歩いていた彼女が突然くるりとスカートを翻しながら振り返った。
「君は本当に犬みたいだな」
「そういう君こそ猫みたいだ」
そう間髪入れずに伝えた。
彼女は虚を衝かれたような顔をした後、ふんわりと笑った。
| 2010/02/11 ブログ収録 | 2010/02/14 サイト収録 |
[あとがき。]
30分創作の要領で書くとやっぱり短いですねorz
もうちょっと中身を濃くして、徐々に長くしていきたいですねぇ。
何はともあれ、今日から1年365日のお題連日更新スタート!
[あとがき。]
30分創作の要領で書くとやっぱり短いですねorz
もうちょっと中身を濃くして、徐々に長くしていきたいですねぇ。
何はともあれ、今日から1年365日のお題連日更新スタート!
2/12
ハンカチーフ
物干し竿に洗濯物がはためいている。洗濯物の中にあたしのものではないその黒いハンカチがベランダで気持ちよさそうに風になびいている。
あたしはその様を眺めながら忌々し気に息を吐いた。
本当ならばこんな借り作りたくなかったのに。
昨夜、あたしは同僚に誘われて飲みに行っていた。なぜかその席に入社した頃から目の敵にしているアイツもいたのだ。
そんな席であたしは悪酔いしてしまい、何がどうなったのかは覚えていないけれども、勢いよくビールをスカートにぶちまけてしまったのだ。やや涙目になりながらスカートを拭っているあたしに、アイツが差し出したのがあの黒いハンカチというわけだ。
けれども、何も最初からアイツを嫌っていたわけではない。入社したその当時は同僚のひとりで、同時に新しい社会人生活を生き抜いていく戦友でもあった。
そんな友が敵に変わったのは、忘れもしない梅雨真っ盛りの六月。月末の営業成績を呆然と眺めていた横で吐いた一言だった。
「お前、この仕事向いてないんじゃね?」
アイツは飄々とそうのたまったのだ。嫌味なまでに、アイツの成績は同僚の中では群を抜いて良かった。それに引き換え、あたしはブービー賞をいただくか回避できるかという底辺ぶり。
その日の夜、親友を呼び出して朝まで泣きながら飲み明かしたことは思い出したくない過去のひとつになった。
そんなアイツに作った借り。
「……明日どんな顔して会社に行けばいいのよぉ」
そう呻きながら床の上で小さく丸まった。
あたしはその様を眺めながら忌々し気に息を吐いた。
本当ならばこんな借り作りたくなかったのに。
昨夜、あたしは同僚に誘われて飲みに行っていた。なぜかその席に入社した頃から目の敵にしているアイツもいたのだ。
そんな席であたしは悪酔いしてしまい、何がどうなったのかは覚えていないけれども、勢いよくビールをスカートにぶちまけてしまったのだ。やや涙目になりながらスカートを拭っているあたしに、アイツが差し出したのがあの黒いハンカチというわけだ。
けれども、何も最初からアイツを嫌っていたわけではない。入社したその当時は同僚のひとりで、同時に新しい社会人生活を生き抜いていく戦友でもあった。
そんな友が敵に変わったのは、忘れもしない梅雨真っ盛りの六月。月末の営業成績を呆然と眺めていた横で吐いた一言だった。
「お前、この仕事向いてないんじゃね?」
アイツは飄々とそうのたまったのだ。嫌味なまでに、アイツの成績は同僚の中では群を抜いて良かった。それに引き換え、あたしはブービー賞をいただくか回避できるかという底辺ぶり。
その日の夜、親友を呼び出して朝まで泣きながら飲み明かしたことは思い出したくない過去のひとつになった。
そんなアイツに作った借り。
「……明日どんな顔して会社に行けばいいのよぉ」
そう呻きながら床の上で小さく丸まった。
| 2010/02/12 ブログ収録 | 2010/02/14 サイト収録 |
[あとがき。]
ちょっとは長くなった……かな?
今回は恋愛風味で仕上げてみました(´ω`*)
[あとがき。]
ちょっとは長くなった……かな?
今回は恋愛風味で仕上げてみました(´ω`*)
2/13
思いを込めて
精練な空気が神殿を包み込む。神殿の傍を流れる小川が静けさをさらに彩っていた。
「いよいよ今日、ですか……」
白い装束に身を包んだ少女が神殿のご神木にそっと手を添える。
少女は生まれながらにして神殿の巫女となるべく育てられた。そして、今日という日から天なる父と共にあるために教育されてきた。
「怖い、ですか?」
少女の後ろから少女と同じく白い装束の老婦人が声をかけた。
「怖くないと言えば嘘になるかもしれません。けれども、不思議な感覚です」
「不思議な感覚……ですか」
少女の言葉に老婦人は首をかしげた。少女はそれに答えるように微笑み、続けた。
「はい。私という存在はこの世界に消えてしまいますが、天なる父と共にあれるわけですから……不安はございません」
その少女の笑みは儚く、そして美しかった。
「いよいよ今日、ですか……」
白い装束に身を包んだ少女が神殿のご神木にそっと手を添える。
少女は生まれながらにして神殿の巫女となるべく育てられた。そして、今日という日から天なる父と共にあるために教育されてきた。
「怖い、ですか?」
少女の後ろから少女と同じく白い装束の老婦人が声をかけた。
「怖くないと言えば嘘になるかもしれません。けれども、不思議な感覚です」
「不思議な感覚……ですか」
少女の言葉に老婦人は首をかしげた。少女はそれに答えるように微笑み、続けた。
「はい。私という存在はこの世界に消えてしまいますが、天なる父と共にあれるわけですから……不安はございません」
その少女の笑みは儚く、そして美しかった。
| 2010/02/13 ブログ収録 | 2010/02/14 サイト収録 |
[あとがき。]
使いまわしで申し訳ないです!!
実は、今夜あった30分創作「お題曲:MOON(YouTube)」で書いたものですorz
少女の思いを込めてみました!
[あとがき。]
使いまわしで申し訳ないです!!
実は、今夜あった30分創作「お題曲:MOON(YouTube)」で書いたものですorz
少女の思いを込めてみました!
2/14
チョコレート乱舞!
かばんの中でそれをこっそりと確かめる。
それは普通にラッピングされたいくつかの袋の中、ひときわ可愛くラッピングされていた。
「……よし」
あたしは確かめるように気合をいれ、教室内を見渡した。
放課後に入った教室の中は部活に行った連中以外は何気に残っている。
でも、あたしが探しているヤツがよりによっていない。
「はるかー」
親友のみどりがあたしを呼びながら教室に入ってきた。その手は手ぶらだ。
「あれ、かばんは?」
「ふふん、今日は一緒に帰るんだー」
みどりが嬉しそうに笑う。
「ああ、カレシくん待ってるんだ」
「そゆこと! ところではるかはいいの?」
「いいの、ってどゆこと?」
首を傾げるとみどりが近づき、耳打ちしてきた。
「ワタナベ君、下駄箱のとこで女の子に声かけられてたよ」
「ええええっ!?」
あたしの絶叫が教室中に木霊し、みんなどうしたって顔でこちらを見てくる。
「え、ちょ、ど!?」
「ほらほら! 早く行く!」
みどりは挙動不審なあたしの背を押し、その手にかばんを持たせた。
「じゃーねー!」
教室の入り口で大きく手を振るみどりに顔を引き攣らせながら、あたしは下駄箱へと向かった。
下駄箱には誰もいなかった。
(もしかして……)
「遅かった?」
「何がだよ」
後ろから声がした。ワタナベの声だった。
「ワタナベ……?」
「ん?」
「どうしてここにいるの?」
「いちゃ悪いのかよ」
ワタナベはちょっと拗ねたように視線をそらした。
「わ……悪くないけど、けど告白されてたんじゃ?」
あたしは伺うようにワタナベを見た。
「あー……もしかして見てた?」
「あっ、あたしが見たわけじゃなくて……! その友達が見たらしくて、ええと」
言葉が口を上滑りして転がっていく。
「ふーん。で、お前はくれないの?」
心が熱い。耳まで心臓になったようにうるさい。
「……さっきの女の子にもらったんじゃないの?」
「好きでもないやつからもらえるかよ」
そう言ったワタナベはにやりと笑った。
それは普通にラッピングされたいくつかの袋の中、ひときわ可愛くラッピングされていた。
「……よし」
あたしは確かめるように気合をいれ、教室内を見渡した。
放課後に入った教室の中は部活に行った連中以外は何気に残っている。
でも、あたしが探しているヤツがよりによっていない。
「はるかー」
親友のみどりがあたしを呼びながら教室に入ってきた。その手は手ぶらだ。
「あれ、かばんは?」
「ふふん、今日は一緒に帰るんだー」
みどりが嬉しそうに笑う。
「ああ、カレシくん待ってるんだ」
「そゆこと! ところではるかはいいの?」
「いいの、ってどゆこと?」
首を傾げるとみどりが近づき、耳打ちしてきた。
「ワタナベ君、下駄箱のとこで女の子に声かけられてたよ」
「ええええっ!?」
あたしの絶叫が教室中に木霊し、みんなどうしたって顔でこちらを見てくる。
「え、ちょ、ど!?」
「ほらほら! 早く行く!」
みどりは挙動不審なあたしの背を押し、その手にかばんを持たせた。
「じゃーねー!」
教室の入り口で大きく手を振るみどりに顔を引き攣らせながら、あたしは下駄箱へと向かった。
下駄箱には誰もいなかった。
(もしかして……)
「遅かった?」
「何がだよ」
後ろから声がした。ワタナベの声だった。
「ワタナベ……?」
「ん?」
「どうしてここにいるの?」
「いちゃ悪いのかよ」
ワタナベはちょっと拗ねたように視線をそらした。
「わ……悪くないけど、けど告白されてたんじゃ?」
あたしは伺うようにワタナベを見た。
「あー……もしかして見てた?」
「あっ、あたしが見たわけじゃなくて……! その友達が見たらしくて、ええと」
言葉が口を上滑りして転がっていく。
「ふーん。で、お前はくれないの?」
心が熱い。耳まで心臓になったようにうるさい。
「……さっきの女の子にもらったんじゃないの?」
「好きでもないやつからもらえるかよ」
そう言ったワタナベはにやりと笑った。
| 2010/02/14 ブログ収録 | 2010/02/14 サイト収録 |
[あとがき。]
一昨年30分小説で活躍していたはるか嬢です。
覚えてらっしゃる方いるかなー。
書ききれてないのでまたリメイクしますが、なんだかニマニマしちゃう展開ですね!(ぇ
って、全然乱舞できてない……?
[あとがき。]
一昨年30分小説で活躍していたはるか嬢です。
覚えてらっしゃる方いるかなー。
書ききれてないのでまたリメイクしますが、なんだかニマニマしちゃう展開ですね!(ぇ
って、全然乱舞できてない……?
2/15
コゲてない目玉焼き
芳ばしい香りがキッチンを充満している。
「おっかしいなー」
そのキッチンに立つリカはフライパンを見てしきりに首を傾げている。
「一体何がおかしいんだ」
いつの間に現れたのか、マフォリナがキッチンの入り口で腕を組み、キッチンを充満している香りに眉をひそめた。マフォリナの声にリカが嬉しそうに振り返った。
「あ、マフォリナ! あのね、今日こそ成功できたと思ったんだよ?」
「それはリカの言動から理解している」
「うんうん、だからね。不思議なの」
そう呟いてリカは再びフライパンに向き直った。
「だから一体何がだ」
「ちゃんと本に書いてある通りに焼いたんだもん……」
「ああ。それでこうなったのか」
マフォリナも同じくフライパンの中に視線を注いだ。
そこには真っ黒に焦げた目玉焼きがくすぶっていた。
「……まぁ、早くその書物通りに焼けるといいな。来るのかわからないが」
マフォリナはそう呟き、部屋から出て行った。リカはマフォリナがいた場所をにらみつけ、こぶしを握りこんだ。
「絶対次はきれいな目玉焼き作ってやるわよー!」
「おっかしいなー」
そのキッチンに立つリカはフライパンを見てしきりに首を傾げている。
「一体何がおかしいんだ」
いつの間に現れたのか、マフォリナがキッチンの入り口で腕を組み、キッチンを充満している香りに眉をひそめた。マフォリナの声にリカが嬉しそうに振り返った。
「あ、マフォリナ! あのね、今日こそ成功できたと思ったんだよ?」
「それはリカの言動から理解している」
「うんうん、だからね。不思議なの」
そう呟いてリカは再びフライパンに向き直った。
「だから一体何がだ」
「ちゃんと本に書いてある通りに焼いたんだもん……」
「ああ。それでこうなったのか」
マフォリナも同じくフライパンの中に視線を注いだ。
そこには真っ黒に焦げた目玉焼きがくすぶっていた。
「……まぁ、早くその書物通りに焼けるといいな。来るのかわからないが」
マフォリナはそう呟き、部屋から出て行った。リカはマフォリナがいた場所をにらみつけ、こぶしを握りこんだ。
「絶対次はきれいな目玉焼き作ってやるわよー!」
| 2010/02/15 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
「霧の空 霞の原」からリカ嬢とマフォリナ氏です。
久々に書いたけれども、やっぱりこの二人の掛け合いは楽しいですねぇ♪
あれも書き直すか続編作ってもいいなぁ
[あとがき。]
「霧の空 霞の原」からリカ嬢とマフォリナ氏です。
久々に書いたけれども、やっぱりこの二人の掛け合いは楽しいですねぇ♪
あれも書き直すか続編作ってもいいなぁ
2/16
経験を糧にして
手のひらを砂がこぼれるように何かがこぼれていく。
本当は手のひらに留めておきたいはずなのに、さらさらと流れて消えていく。
留めようとすればするほどに、胃が痛くなっていく。
ついには何を留めておきたかったのかさえもわからなくなり、頭を抱えて叫びたくなる。
すべてを遮断することができればいいのに。
いくら願ったとしてもその願いは叶わなくて、私は現実を冷たく眺めて歩き出す。
この一歩が明日の私にとってより良きものになりますようにと、切に願いながら……。
本当は手のひらに留めておきたいはずなのに、さらさらと流れて消えていく。
留めようとすればするほどに、胃が痛くなっていく。
ついには何を留めておきたかったのかさえもわからなくなり、頭を抱えて叫びたくなる。
すべてを遮断することができればいいのに。
いくら願ったとしてもその願いは叶わなくて、私は現実を冷たく眺めて歩き出す。
この一歩が明日の私にとってより良きものになりますようにと、切に願いながら……。
| 2010/02/16 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
勢いですごめんなさいっ
なんだかいつの間にかだいぶ参ってしまってたみたいで、それを叩きつけてしまった……orz
もうちょっとコントロールできるように適度に息抜く様にします〜。
[あとがき。]
勢いですごめんなさいっ
なんだかいつの間にかだいぶ参ってしまってたみたいで、それを叩きつけてしまった……orz
もうちょっとコントロールできるように適度に息抜く様にします〜。
2/17
寒さの中で
夜の帳が訪れ、びゅうびゅうと風の鳴る音がする。障子が風に揺れて音をかすかに立てていた。
「今宵は冷えますね」
菖蒲ちゃんが七輪の炭をいじりながら声をかけてきた。
「そうやね」
視線を障子から菖蒲ちゃんへと移した。菖蒲ちゃんとあたしの間には蝋燭がちりちりと燃えている。その蝋燭がこの部屋唯一の光源になっている。
「智紀様が今こちらに向かわれていらっしゃいますから、香でも焚いておきますね」
「……ありがと」
いまだにこの状況に慣れないあたしは照れて視線が泳いでいた。
「ふふ、まだ慣れないのですね」
「う。……しょうがないやーん」
菖蒲ちゃんにすがりついたけれども、軽くあしらわれてしまった。
「まぁ。そんな姫様だからこそ、わたくしは姫様について行こうと思ったのですけれどもね。それでは明日の朝にまた参りますね」
「うん。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
菖蒲ちゃんが静かに部屋から出て行った。一際風の音が大きくなったような気がした。七輪の暖かさがあると言っても、快適なほど暖かいとは言えない。外だと寒さもよりいっそう厳しい。その寒さの中来てくれる智紀のことを考えると心が温かくなった。
「……早く来ぉへんかなぁ」
「今宵は冷えますね」
菖蒲ちゃんが七輪の炭をいじりながら声をかけてきた。
「そうやね」
視線を障子から菖蒲ちゃんへと移した。菖蒲ちゃんとあたしの間には蝋燭がちりちりと燃えている。その蝋燭がこの部屋唯一の光源になっている。
「智紀様が今こちらに向かわれていらっしゃいますから、香でも焚いておきますね」
「……ありがと」
いまだにこの状況に慣れないあたしは照れて視線が泳いでいた。
「ふふ、まだ慣れないのですね」
「う。……しょうがないやーん」
菖蒲ちゃんにすがりついたけれども、軽くあしらわれてしまった。
「まぁ。そんな姫様だからこそ、わたくしは姫様について行こうと思ったのですけれどもね。それでは明日の朝にまた参りますね」
「うん。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
菖蒲ちゃんが静かに部屋から出て行った。一際風の音が大きくなったような気がした。七輪の暖かさがあると言っても、快適なほど暖かいとは言えない。外だと寒さもよりいっそう厳しい。その寒さの中来てくれる智紀のことを考えると心が温かくなった。
「……早く来ぉへんかなぁ」
| 2010/02/18 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
久々に書いてみました、彩乃嬢と菖蒲嬢です。
今は下げています「平安奇憚記」からです。
もうちょっと設定をきちんとしてこれもリメイクしたい候補のひとつです(笑)
※新ルール適用前
[あとがき。]
久々に書いてみました、彩乃嬢と菖蒲嬢です。
今は下げています「平安奇憚記」からです。
もうちょっと設定をきちんとしてこれもリメイクしたい候補のひとつです(笑)
※新ルール適用前
2/18
コンビニエンス
「コーヒー牛乳が飲みたい」
突然、隣のヤツが呟いた。
「飲みたいなら買ってくれば?」
ちなみに今は数学の時間だ。
「今すぐ飲みたいんだ、今すぐ!」
「ちょ、声が大きいってッ」
注意したら先生に睨まれた。ちょっとあたしじゃないですよ!
隣を見れば、ヤツは机に突っ伏していた。
「……休み時間に購買部行ってくれば?」
「さっき今すぐって言ったヨ?」
「知ってるよ?」
「今すぐが良いんだよー」
そして今初めてあたしは気づいた。ヤツの視線があたしの机の上に堂々と鎮座しているコーヒー牛乳に注がれていることに。
「や、さすがに授業中はまずくない?」
「おっし。授業終わったらくれるってことだな」
「は? あげるなんて言ってないし。第一なんであたしがあんたにあたしのコーヒー牛乳あげなきゃなんないのよ」
「いいよいいよ、照れなくても。オレはちゃんとわかってるからさ」
「……うぜぇ」
その後? もちろん、授業終わり即行に目の前で飲み干してやった。悲痛な叫び声が教室中に響き、視線が痛かったことを思えば、少しくらいあげてもよかったかもしれない。
突然、隣のヤツが呟いた。
「飲みたいなら買ってくれば?」
ちなみに今は数学の時間だ。
「今すぐ飲みたいんだ、今すぐ!」
「ちょ、声が大きいってッ」
注意したら先生に睨まれた。ちょっとあたしじゃないですよ!
隣を見れば、ヤツは机に突っ伏していた。
「……休み時間に購買部行ってくれば?」
「さっき今すぐって言ったヨ?」
「知ってるよ?」
「今すぐが良いんだよー」
そして今初めてあたしは気づいた。ヤツの視線があたしの机の上に堂々と鎮座しているコーヒー牛乳に注がれていることに。
「や、さすがに授業中はまずくない?」
「おっし。授業終わったらくれるってことだな」
「は? あげるなんて言ってないし。第一なんであたしがあんたにあたしのコーヒー牛乳あげなきゃなんないのよ」
「いいよいいよ、照れなくても。オレはちゃんとわかってるからさ」
「……うぜぇ」
その後? もちろん、授業終わり即行に目の前で飲み干してやった。悲痛な叫び声が教室中に響き、視線が痛かったことを思えば、少しくらいあげてもよかったかもしれない。
| 2010/02/18 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
コンビニエンス→コンビニ→コーヒー牛乳→高校生活→コーヒー牛乳+高校生活→購買部!
となった結果です(ぇ
全然便利な話じゃないです(笑)
[あとがき。]
コンビニエンス→コンビニ→コーヒー牛乳→高校生活→コーヒー牛乳+高校生活→購買部!
となった結果です(ぇ
全然便利な話じゃないです(笑)
2/19
何か恵んでください
広大な草原が広がっている。右を見ても左を見ても草だらけだ。
「もう無理。もう限界。もう動けない」
俺はそんな草原の中、行き倒れかけていた。
三日前、滞在していた街を出た。そして今、行き倒れている。次の街までまだ幾日かある。
もちろん、道中の食料や水の準備は万端だった。しかし、不運なことに出発したその日に盗賊に襲われ、不注意で食料を全部落としてしまった。残っているものは水のみ。その水だけを頼りにここまで歩いてきた。
それももう限界だ。体はふらふらだし、腹はずっと鳴ってる。倒れこんでしまってから、起き上がる気力さえも出てこない。
(ああ、俺このまま死んじまうのかな……)
そう頭によぎり始めると、勝手に頭が動き始めた。真面目に生きていればよかっただの、もっと欲望のままに生きていればよかっただのと。
「お兄さん何やってんの?」
頭上が影った。最後の力を振り絞って見上げる。
「あ……」
見上げるとそこには布のワンピースとなめした皮のグローブをつけた娘さんが立っていた。その後ろには平和的に草食動物がメェメェ鳴いている。
「行き倒れているん……です」
タイミングよく腹がグー。
「ああ、お腹すいてるんだね。あたしのおやつでよければあげようか?」
「ください!! 超ください!!」
俺は即座に起き上がり、そのままの勢いで土下座していた。
「もう無理。もう限界。もう動けない」
俺はそんな草原の中、行き倒れかけていた。
三日前、滞在していた街を出た。そして今、行き倒れている。次の街までまだ幾日かある。
もちろん、道中の食料や水の準備は万端だった。しかし、不運なことに出発したその日に盗賊に襲われ、不注意で食料を全部落としてしまった。残っているものは水のみ。その水だけを頼りにここまで歩いてきた。
それももう限界だ。体はふらふらだし、腹はずっと鳴ってる。倒れこんでしまってから、起き上がる気力さえも出てこない。
(ああ、俺このまま死んじまうのかな……)
そう頭によぎり始めると、勝手に頭が動き始めた。真面目に生きていればよかっただの、もっと欲望のままに生きていればよかっただのと。
「お兄さん何やってんの?」
頭上が影った。最後の力を振り絞って見上げる。
「あ……」
見上げるとそこには布のワンピースとなめした皮のグローブをつけた娘さんが立っていた。その後ろには平和的に草食動物がメェメェ鳴いている。
「行き倒れているん……です」
タイミングよく腹がグー。
「ああ、お腹すいてるんだね。あたしのおやつでよければあげようか?」
「ください!! 超ください!!」
俺は即座に起き上がり、そのままの勢いで土下座していた。
| 2010/02/19 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
ぼ、牧場風景頑張ってみました……!
全然牧場的な描写じゃないですけどねorz
明日はもうちょっと頑張ってみます!
[あとがき。]
ぼ、牧場風景頑張ってみました……!
全然牧場的な描写じゃないですけどねorz
明日はもうちょっと頑張ってみます!
2/20
北斗七星
俺は行き倒れてしまった。これまでの道中に食料を全て落としてしまい、水だけで残りの道を進もうと無謀なことをしていたら、見事に腹が減りすぎて倒れてしまった。そんなとき、たまたま近くに来ていた遊牧民の娘に助けられた。彼女のおやつを恵んでもらい、俺はなんとか今日を繋げることができた。
事情を知った彼女は、最低限の食料と今晩の宿を提供してくれると申し出てくれた。まさに天からの恵みと言えよう。
「いやぁ、食った食った!」
腹いっぱい彼ら遊牧民の食事を平らげ、歓迎の宴とやらが目の前で行われている。馴染みのない笛や太鼓が楽しげな旋律を奏で、それに合わせて子どもや女性たちが踊る。そんな光景を見守るように北の夜空に星々が瞬いていた。
事情を知った彼女は、最低限の食料と今晩の宿を提供してくれると申し出てくれた。まさに天からの恵みと言えよう。
「いやぁ、食った食った!」
腹いっぱい彼ら遊牧民の食事を平らげ、歓迎の宴とやらが目の前で行われている。馴染みのない笛や太鼓が楽しげな旋律を奏で、それに合わせて子どもや女性たちが踊る。そんな光景を見守るように北の夜空に星々が瞬いていた。
| 2010/02/20 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
30分創作のお題に「北斗七星」を使わせていただいたので、前回の続きを書いてみました。
私の中で、牧場と言えば遊牧民がやっぱり強いんですよねぇ。
モンゴルっぽい感じな。
それよりも北海道的な牧場は出てこないのか、私……!
(※ 現在、牧場シーンの描写強化期間です)
[あとがき。]
30分創作のお題に「北斗七星」を使わせていただいたので、前回の続きを書いてみました。
私の中で、牧場と言えば遊牧民がやっぱり強いんですよねぇ。
モンゴルっぽい感じな。
それよりも北海道的な牧場は出てこないのか、私……!
(※ 現在、牧場シーンの描写強化期間です)
2/21
体温計 1本目
「うー……」
頭痛にくらくらしながらベッドの中で唸る。鼻も詰まり、呼吸するのも苦しい。喉もひりひり痛いし、のど飴舐めたいけれどもそのまま飲み込んでしまいそうで怖い。
そんな状態で先ほどから寝ようと目蓋を閉じたり開いたりを繰り返している。
「ほら、氷のうと体温計持ってきてやったぞ」
ちょうどお見舞いに来てくれた悟が部屋に入ってくる。
「望、大丈夫か?」
「うー……しんどいよー……」
悟が気遣うように氷のうをおでこに当たるように調節してくれる。そして体温計を受け取り、脇へと差し込んだ。時間が過ぎるまで静かな時間が過ぎていく。
「ん、何度位になった?」
脇から抜いた体温計を悟に渡す。
「38度か、さっきよりは下がったな。そうだ。コンビニ行って来るけれど、何か欲しいものでもあるか?」
「うー……ジュース飲みたい……」
「え? ちゅーしてほしい?」
「ばッ!?」
「ははっ、ちょっと元気になったな。そのままおとなしく寝てろよ?」
悟はコートを羽織り、さわやかに部屋から出て行った。
「もぉー……、悟のばか」
頭痛にくらくらしながらベッドの中で唸る。鼻も詰まり、呼吸するのも苦しい。喉もひりひり痛いし、のど飴舐めたいけれどもそのまま飲み込んでしまいそうで怖い。
そんな状態で先ほどから寝ようと目蓋を閉じたり開いたりを繰り返している。
「ほら、氷のうと体温計持ってきてやったぞ」
ちょうどお見舞いに来てくれた悟が部屋に入ってくる。
「望、大丈夫か?」
「うー……しんどいよー……」
悟が気遣うように氷のうをおでこに当たるように調節してくれる。そして体温計を受け取り、脇へと差し込んだ。時間が過ぎるまで静かな時間が過ぎていく。
「ん、何度位になった?」
脇から抜いた体温計を悟に渡す。
「38度か、さっきよりは下がったな。そうだ。コンビニ行って来るけれど、何か欲しいものでもあるか?」
「うー……ジュース飲みたい……」
「え? ちゅーしてほしい?」
「ばッ!?」
「ははっ、ちょっと元気になったな。そのままおとなしく寝てろよ?」
悟はコートを羽織り、さわやかに部屋から出て行った。
「もぉー……、悟のばか」
| 2010/02/22 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
こればかりは牧場描写がハードルが高すぎたので現代で書きましたorz
自作品「Double Moon」よりメイン2キャラです。
って、今は下げてましたっけ;
これも設定ちゃんと組んでリメイクしたい候補ですねぇ(候補多すぎ)
[あとがき。]
こればかりは牧場描写がハードルが高すぎたので現代で書きましたorz
自作品「Double Moon」よりメイン2キャラです。
って、今は下げてましたっけ;
これも設定ちゃんと組んでリメイクしたい候補ですねぇ(候補多すぎ)
2/21
体温計 2本目
いつものように左手に愛槍を携えながら、街の大通りを通ってギルドへと足を運ぶ。体調は今日も至って良好だ。
「オヤジィ! 何か面白い依頼とかあるか?」
ギルドの扉を開けながら、カウンターにいるギルドのマスターに声をかけた。
「来て早々だな。面白い依頼と言えば、ちょうどこんな依頼が来てたぞ」
マスターが一枚の依頼書を出してきた。
「なんだこれ」
バーナビーが依頼書を受け取ってそう言葉に発した瞬間、依頼書の四隅に小さく紋様が浮き上がり消えた。それと同時にバーナビーの視界が反転した。
「おいっ、バーナビー!? ジャン、来てくれッ!」
突然の出来事にギルド内が騒然とした。
バーナビーが目を覚ますと、ギルドの二階に割り当てられている貸し部屋の一室だった。そして、どうやらベッドに寝かされているようだった。ベッドの脇には愛槍とバーナビーの荷物が固めて置かれていた。
「目が覚めたね」
横から声が聞こえ、そちらの方へ視線を移動させると、ギルドメンバーであり医者でもあるクレマンが立っていた。
「クレマン……? 一体どうして?」
起き上がろうとしたが、力がまったく入らない。寸分たりとも動かない肢体に混乱する。
「落ち着いて、バーナビー」
「これが落ち着いてられるかッ!」
「ほらほら医者の話は聞く」
取り乱しているバーナビーをなだめすかし、言葉を続けた。
「依頼を受けに来たところでいきなり倒れたって聞いたけど、ちょうど僕がいて本当によかったね。見たところ熱が出てる様子はないんだよねー」
「そんなことよりも体が動かないんだッ!!」
「体が? 何か変なもの口にしたりしなかった?」
「それはない。……けれども変なことは起きたな」
「変なこと?」
「依頼書持ったとき、依頼書の四隅に変なマークが浮かんで消えたんだ」
「それで倒れた、と」
「ああ」
部屋の中にはクレマンがカルテに文字を書く音が静かに響く。
「……俺、このままなんだろうかな」
バーナビーの口からふとこぼれた本音にクレマンが目を見張った。
「へぇ」
「……何だよ」
「いや、バーナビーにしては珍しく気弱だなーって思って」
「うるせー」
「はいはい。それじゃあ僕はマスターに伝えに行くよー」
「ああ、頼む」
クレマンはひらひらと後ろ手に振り、部屋から出て行った。それと入れ替わるように、マスターに一方的に弟子入りしている料理人――ジャンが盆にティーセットを乗せて入ってきた。
「お、目が覚めたか」
「ジャンか」
「あんた倒れたんだってな。気休め程度だろうが薬湯を入れてきてやったぞ」
「おー、悪いな」
ジャンがベッド脇のサイドテーブルの上に盆を置き、ティーカップに薬湯を注ぐ。
「ロベリアのお手製ハーブティだからな」
「おい、それ飲んで本当大丈夫か……?」
「毒見は完璧だ」
ジャンはそう言いながら力強く親指を立てた。
「ジャンがそう言うなら大丈夫なんだろうな」
「っと、そのままじゃ飲みにくいよな。ちょっと待ってろ、何かクッションになる物とリアをつれてくるから」
「何だか悪いな……」
バーナビーの表情が陰るとジャンは軽くバーナビーの額をはたいた。
「病人は黙って世話されてたらいいんだよ」
そしてバタバタと部屋から出て行き、両脇に枕を抱えて後ろに魔法使いであるリアを連れて戻ってきた。室内に入ってきたリアは興味深げにバーナビーを眺めた。
「本当に動けないんですか?」
「ああ、喋れるだけ有難い感じだな」
「ちょっと持ち上げるけど我慢してくれな」
ジャンがそう言いバーナビーの背に手を差し入れ、起き上がらせた。
「目標、固定化します」
リアが高らかに宣言すると同時にバーナビーは固定化され、中途半端に起き上がった状態のまま止まっている。
「なんだか、奇妙な感じだな」
バーナビーが自身の状態を省みて一言感想をもらした。
「面白いことになっているんですね」
「リアにはどういう風に見えているんだ?」
「面白いので内緒です」
リアはにっこりと笑う。それにバーナビーは脱力した。体は動かなかったが。
「……なんだそれ」
「ほら、枕置いたぞ」
「固定化、解除します」
再びリアの高らかな宣言でバーナビーの体がゆっくりと枕に沈んでいく。それでも積み上げられた枕のおかげで飲食しても不都合ではない高さに留まっていた。
「ジャンもリアもありがとうな」
「だから病人は黙って世話されてろって」
「訓練になりますからいくらでも。一応その状態も固定しておきますね。目標、固定します」
「っと、俺は下ごしらえがまだ残ってるからそろそろ戻るな」
バーナビーが頷くのを見届け、ジャンは部屋から出て行った。そして、部屋に残っているリアを見やった。
「リアは行かないのか?」
「ここにいては何か不都合でも?」
「いや、そういう意味じゃないんだが」
「マスターから緊急クエストが出てますから、ギルドのみんなと出かける予定ですよ」
「緊急クエスト……か。俺も出られればよかったんだがな」
「何を言っているんですか? あなたのその状態の原因究明クエストですよ」
「あ、ああ……それは悪かったな……」
「ええ、本当ですね。それでは私も行ってきます。あなたは薬湯でも飲んで眠っていればいいですよ」
リアはにっこりと笑いながら言い切り、スタスタと部屋から出て行った。その後ろ姿を唖然と見送ったバーナビーは薬湯に手を伸ばし、一息ついた。
「おや、珍しい」
扉から顔を覗かせた同じくギルドメンバーの義春が驚いたように眉を上げた。
「よう、義春」
「一体どうしたんだい?」
そう聞きながら部屋に入り、ベッドの横に置かれている簡易イスに座った。
「いやさ、依頼書見たらいきなり倒れたらしくて」
「らしいって……熱でも?」
「いや、熱はないみたいなんだ」
「じゃあどうして……」
そう言いながら義春は寝たきり状態になっているバーナビーを眺めた。
「原因は不明だ。今のところは呪い説が一番有望かな」
「随分あっさりとしているんだね」
「まあな。現状を嘆いたって何も変わらんだろ。それに」
「それに?」
「オヤジが呪いの可能性を確認するためにギルドに依頼を出してくれてるみたいだしな」
「なるほど」
「アイツらならなんとかしてくれそうだろ?」
「はは、確かに。それじゃあ私はそろそろ自室に戻るよ」
「ああ、話し相手ありがとうな」
「いやいや、お互い様だよ」
義春はにこやかに微笑みながら、部屋を後にした。
窓からは昼下がりの暖かな日差しが差し込み、バーナビーはうとうととし始めた。気持ちよくまどろんでいる中、室内に入ってくる気配を確認した。ギルド内ということもあって安心したまま、近づいてくる気配をそのままにしていた。その気配はバーナビーの傍らで止まり、それと同じくして脇辺りに何かが置かれた。バーナビーはそろそろと目を開けると、自身の脇にブリキの人形がこちらを見るように座っていた。
「おわっ!? って、お前か」
傍らの簡易イスを見ると、人形師が静かに座っていた。
「お見舞い。バーナビーにあげる」
「あ、ああ。ありがとうな」
「エリィのおかげでもうすぐ動ける」
「へ?」
「エリィが呪いのもとがわかる道具を持ってたから」
「ああ! それじゃあ、やっぱりこれは呪いだったのか」
「アルトとキールとイザナギとクロイとヤマトとシブリーがそこに向かったから」
人形師が指折りギルドのメンバーの名前を上げていく。
「なんだよその火力全開なパーティは……」
バーナビーは呆れて額に手をやった。
「それじゃあ」
人形師は簡素にそれだけ伝えると立ち去った。
「って、あれ。もしかしてもう動けたりするのか!?」
歓喜し、起き上がろうと力を入れた。が、起き上がることができなかった。再び混乱する思考。そして思い立った先ほどの出来事。
「って、あああ! リアの魔法がまだ解けてないのかよ……」
バーナビーは呪いが解かれた後も、固定化のまま夜まで過ごすことになった。そして呪いの原因は、同業者からの嫌がらせだったと後日わかった。
「オヤジィ! 何か面白い依頼とかあるか?」
ギルドの扉を開けながら、カウンターにいるギルドのマスターに声をかけた。
「来て早々だな。面白い依頼と言えば、ちょうどこんな依頼が来てたぞ」
マスターが一枚の依頼書を出してきた。
「なんだこれ」
バーナビーが依頼書を受け取ってそう言葉に発した瞬間、依頼書の四隅に小さく紋様が浮き上がり消えた。それと同時にバーナビーの視界が反転した。
「おいっ、バーナビー!? ジャン、来てくれッ!」
突然の出来事にギルド内が騒然とした。
バーナビーが目を覚ますと、ギルドの二階に割り当てられている貸し部屋の一室だった。そして、どうやらベッドに寝かされているようだった。ベッドの脇には愛槍とバーナビーの荷物が固めて置かれていた。
「目が覚めたね」
横から声が聞こえ、そちらの方へ視線を移動させると、ギルドメンバーであり医者でもあるクレマンが立っていた。
「クレマン……? 一体どうして?」
起き上がろうとしたが、力がまったく入らない。寸分たりとも動かない肢体に混乱する。
「落ち着いて、バーナビー」
「これが落ち着いてられるかッ!」
「ほらほら医者の話は聞く」
取り乱しているバーナビーをなだめすかし、言葉を続けた。
「依頼を受けに来たところでいきなり倒れたって聞いたけど、ちょうど僕がいて本当によかったね。見たところ熱が出てる様子はないんだよねー」
「そんなことよりも体が動かないんだッ!!」
「体が? 何か変なもの口にしたりしなかった?」
「それはない。……けれども変なことは起きたな」
「変なこと?」
「依頼書持ったとき、依頼書の四隅に変なマークが浮かんで消えたんだ」
「それで倒れた、と」
「ああ」
部屋の中にはクレマンがカルテに文字を書く音が静かに響く。
「……俺、このままなんだろうかな」
バーナビーの口からふとこぼれた本音にクレマンが目を見張った。
「へぇ」
「……何だよ」
「いや、バーナビーにしては珍しく気弱だなーって思って」
「うるせー」
「はいはい。それじゃあ僕はマスターに伝えに行くよー」
「ああ、頼む」
クレマンはひらひらと後ろ手に振り、部屋から出て行った。それと入れ替わるように、マスターに一方的に弟子入りしている料理人――ジャンが盆にティーセットを乗せて入ってきた。
「お、目が覚めたか」
「ジャンか」
「あんた倒れたんだってな。気休め程度だろうが薬湯を入れてきてやったぞ」
「おー、悪いな」
ジャンがベッド脇のサイドテーブルの上に盆を置き、ティーカップに薬湯を注ぐ。
「ロベリアのお手製ハーブティだからな」
「おい、それ飲んで本当大丈夫か……?」
「毒見は完璧だ」
ジャンはそう言いながら力強く親指を立てた。
「ジャンがそう言うなら大丈夫なんだろうな」
「っと、そのままじゃ飲みにくいよな。ちょっと待ってろ、何かクッションになる物とリアをつれてくるから」
「何だか悪いな……」
バーナビーの表情が陰るとジャンは軽くバーナビーの額をはたいた。
「病人は黙って世話されてたらいいんだよ」
そしてバタバタと部屋から出て行き、両脇に枕を抱えて後ろに魔法使いであるリアを連れて戻ってきた。室内に入ってきたリアは興味深げにバーナビーを眺めた。
「本当に動けないんですか?」
「ああ、喋れるだけ有難い感じだな」
「ちょっと持ち上げるけど我慢してくれな」
ジャンがそう言いバーナビーの背に手を差し入れ、起き上がらせた。
「目標、固定化します」
リアが高らかに宣言すると同時にバーナビーは固定化され、中途半端に起き上がった状態のまま止まっている。
「なんだか、奇妙な感じだな」
バーナビーが自身の状態を省みて一言感想をもらした。
「面白いことになっているんですね」
「リアにはどういう風に見えているんだ?」
「面白いので内緒です」
リアはにっこりと笑う。それにバーナビーは脱力した。体は動かなかったが。
「……なんだそれ」
「ほら、枕置いたぞ」
「固定化、解除します」
再びリアの高らかな宣言でバーナビーの体がゆっくりと枕に沈んでいく。それでも積み上げられた枕のおかげで飲食しても不都合ではない高さに留まっていた。
「ジャンもリアもありがとうな」
「だから病人は黙って世話されてろって」
「訓練になりますからいくらでも。一応その状態も固定しておきますね。目標、固定します」
「っと、俺は下ごしらえがまだ残ってるからそろそろ戻るな」
バーナビーが頷くのを見届け、ジャンは部屋から出て行った。そして、部屋に残っているリアを見やった。
「リアは行かないのか?」
「ここにいては何か不都合でも?」
「いや、そういう意味じゃないんだが」
「マスターから緊急クエストが出てますから、ギルドのみんなと出かける予定ですよ」
「緊急クエスト……か。俺も出られればよかったんだがな」
「何を言っているんですか? あなたのその状態の原因究明クエストですよ」
「あ、ああ……それは悪かったな……」
「ええ、本当ですね。それでは私も行ってきます。あなたは薬湯でも飲んで眠っていればいいですよ」
リアはにっこりと笑いながら言い切り、スタスタと部屋から出て行った。その後ろ姿を唖然と見送ったバーナビーは薬湯に手を伸ばし、一息ついた。
「おや、珍しい」
扉から顔を覗かせた同じくギルドメンバーの義春が驚いたように眉を上げた。
「よう、義春」
「一体どうしたんだい?」
そう聞きながら部屋に入り、ベッドの横に置かれている簡易イスに座った。
「いやさ、依頼書見たらいきなり倒れたらしくて」
「らしいって……熱でも?」
「いや、熱はないみたいなんだ」
「じゃあどうして……」
そう言いながら義春は寝たきり状態になっているバーナビーを眺めた。
「原因は不明だ。今のところは呪い説が一番有望かな」
「随分あっさりとしているんだね」
「まあな。現状を嘆いたって何も変わらんだろ。それに」
「それに?」
「オヤジが呪いの可能性を確認するためにギルドに依頼を出してくれてるみたいだしな」
「なるほど」
「アイツらならなんとかしてくれそうだろ?」
「はは、確かに。それじゃあ私はそろそろ自室に戻るよ」
「ああ、話し相手ありがとうな」
「いやいや、お互い様だよ」
義春はにこやかに微笑みながら、部屋を後にした。
窓からは昼下がりの暖かな日差しが差し込み、バーナビーはうとうととし始めた。気持ちよくまどろんでいる中、室内に入ってくる気配を確認した。ギルド内ということもあって安心したまま、近づいてくる気配をそのままにしていた。その気配はバーナビーの傍らで止まり、それと同じくして脇辺りに何かが置かれた。バーナビーはそろそろと目を開けると、自身の脇にブリキの人形がこちらを見るように座っていた。
「おわっ!? って、お前か」
傍らの簡易イスを見ると、人形師が静かに座っていた。
「お見舞い。バーナビーにあげる」
「あ、ああ。ありがとうな」
「エリィのおかげでもうすぐ動ける」
「へ?」
「エリィが呪いのもとがわかる道具を持ってたから」
「ああ! それじゃあ、やっぱりこれは呪いだったのか」
「アルトとキールとイザナギとクロイとヤマトとシブリーがそこに向かったから」
人形師が指折りギルドのメンバーの名前を上げていく。
「なんだよその火力全開なパーティは……」
バーナビーは呆れて額に手をやった。
「それじゃあ」
人形師は簡素にそれだけ伝えると立ち去った。
「って、あれ。もしかしてもう動けたりするのか!?」
歓喜し、起き上がろうと力を入れた。が、起き上がることができなかった。再び混乱する思考。そして思い立った先ほどの出来事。
「って、あああ! リアの魔法がまだ解けてないのかよ……」
バーナビーは呪いが解かれた後も、固定化のまま夜まで過ごすことになった。そして呪いの原因は、同業者からの嫌がらせだったと後日わかった。
| 2010/02/22 ブログ収録 | 2010/02/22 サイト収録 |
[あとがき。]
こちらは参加させていただいている「ものかきギルド・ストーリー」関係作品ですね。
提案キャラであるバーナビーを掴む練習です(^^;
出せる範囲でキャラ出してみましたっ!
って、頑張りすぎましたかね(^^;
上の1本目は30分くらいでできたんですが、こっちで4時間半程かかっちゃいましたorz
これはもうSSとは呼べない量なんじゃ……?
そして、色々出演させていただいたキャラクターを捏造しちゃった感が……(; ̄ー ̄A
作者様方本当申し訳ないですっ!!
特にリアちゃんがなぜかツンデレ化に……;_;
皮肉家頑張ってみたんですけどねぇ;
今回名前だけの出演のキャラクターはまた違うお話で是非とも……!
ちなみにお題の体温計は最初の方に出てくるクレマンのシーン辺りを指します(笑)
そして、最後ちょっと強引過ぎましたかね?w
主な出演キャラクター/クレマン、ジャン・エクスフォード、リア、群青義春 and バーナビー
[あとがき。]
こちらは参加させていただいている「ものかきギルド・ストーリー」関係作品ですね。
提案キャラであるバーナビーを掴む練習です(^^;
出せる範囲でキャラ出してみましたっ!
って、頑張りすぎましたかね(^^;
上の1本目は30分くらいでできたんですが、こっちで4時間半程かかっちゃいましたorz
これはもうSSとは呼べない量なんじゃ……?
そして、色々出演させていただいたキャラクターを捏造しちゃった感が……(; ̄ー ̄A
作者様方本当申し訳ないですっ!!
特にリアちゃんがなぜかツンデレ化に……;_;
皮肉家頑張ってみたんですけどねぇ;
今回名前だけの出演のキャラクターはまた違うお話で是非とも……!
ちなみにお題の体温計は最初の方に出てくるクレマンのシーン辺りを指します(笑)
そして、最後ちょっと強引過ぎましたかね?w
主な出演キャラクター/クレマン、ジャン・エクスフォード、リア、群青義春 and バーナビー
2/22
半信半疑
「ねぇ、本当にぃ?」
お嬢さんが上目遣いでこちらを見ながら聞いてくる。その表情は疑い八割といった感じだ。しかし、こちらだって引くことはできない。
「ええ、本当ですよ。本日のお勉強が終われば、旦那様と奥様が劇場に連れてって下さいますよ」
「ふぅーん……」
お嬢さんは伏し目がちに、それでもって癖で右の親指をくわえ込みながら考え込んでいる。
「ほら、お嬢さん。先生がお待ちですよ」
僕はうそ臭い笑顔を貼り付けてお嬢さんをお部屋へと案内するのであった。
お嬢さんが上目遣いでこちらを見ながら聞いてくる。その表情は疑い八割といった感じだ。しかし、こちらだって引くことはできない。
「ええ、本当ですよ。本日のお勉強が終われば、旦那様と奥様が劇場に連れてって下さいますよ」
「ふぅーん……」
お嬢さんは伏し目がちに、それでもって癖で右の親指をくわえ込みながら考え込んでいる。
「ほら、お嬢さん。先生がお待ちですよ」
僕はうそ臭い笑顔を貼り付けてお嬢さんをお部屋へと案内するのであった。
| 2010/02/22 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
2本書くのはもう嫌だ!!ということで5分です。
荒くてごめんなさい。
これからちゃんと深夜のうちに書いておいて、後は更新するだけを心がけたいです……!
半信半疑感が出てると嬉しいなー。
[あとがき。]
2本書くのはもう嫌だ!!ということで5分です。
荒くてごめんなさい。
これからちゃんと深夜のうちに書いておいて、後は更新するだけを心がけたいです……!
半信半疑感が出てると嬉しいなー。
2/23
虹の色は何色? 1本目
風呂上りにミルクアイスバーを加え、テレビの前のソファに陣取る。リモコンでチャンネルを変えていると、小学生の妹がにやにやと笑いながら寄ってきた。
「ねえねえ、知ってる?」
「何が?」
あたしの視線はテレビのまま、チャンネルはまだ定まらない。
「虹の色を七色まで分けてるのは日本くらいなんだよ」
「へぇー」
生返事を返しながら、チャンネルはバラエティ番組でひとまず落ち着いた。
「少ないところじゃあ、二色にしか分かれてないんだって!」
「ふーん、すごいねー」
テレビ番組を見ながら器用に返事をする。けれども妹にはちゃんと聞いていないことはすでにバレているようで、全然納得のいっていない空気を感じる。
「ちょっと、もー! お姉ちゃんちゃんと聞いてよ!」
「聞いてる聞いてる」
「お母さーん! お姉ちゃんが聞いてくれないー!」
妹はそう叫びながら母にチクりにいった。そして私はテレビ番組に夢中になった。
「ねえねえ、知ってる?」
「何が?」
あたしの視線はテレビのまま、チャンネルはまだ定まらない。
「虹の色を七色まで分けてるのは日本くらいなんだよ」
「へぇー」
生返事を返しながら、チャンネルはバラエティ番組でひとまず落ち着いた。
「少ないところじゃあ、二色にしか分かれてないんだって!」
「ふーん、すごいねー」
テレビ番組を見ながら器用に返事をする。けれども妹にはちゃんと聞いていないことはすでにバレているようで、全然納得のいっていない空気を感じる。
「ちょっと、もー! お姉ちゃんちゃんと聞いてよ!」
「聞いてる聞いてる」
「お母さーん! お姉ちゃんが聞いてくれないー!」
妹はそう叫びながら母にチクりにいった。そして私はテレビ番組に夢中になった。
| 2010/02/24 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
いやぁ、今日も日付越えましたよ。HAHAHA。
というわけで2本立てですorz
全然思い浮かばなくて、苦肉の策でできたものは以前コラムで読んだ虹についてのネタでした。
目に見えない紫までは数えてないとか三色しかないとか、そういうことが書かれてました。
いやぁ、どこでネタに繋がるかわからないですね!
さて、2本目頑張ってきますorz
[あとがき。]
いやぁ、今日も日付越えましたよ。HAHAHA。
というわけで2本立てですorz
全然思い浮かばなくて、苦肉の策でできたものは以前コラムで読んだ虹についてのネタでした。
目に見えない紫までは数えてないとか三色しかないとか、そういうことが書かれてました。
いやぁ、どこでネタに繋がるかわからないですね!
さて、2本目頑張ってきますorz
2/23
虹の色は何色? 2本目
雨が上がった空に七色の帯がかかる。それを見つけたメルヴィは指を示して隣にいる叔父に笑いかける。
「おじさんにじね!」
「ああ、そうだね」
にこにこと幸せそうに虹を眺めていたメルヴィは突然眉間に皺が寄った。
「ねえ、おじさん」
「なんだい?」
「どうしてにじってあめがふってからしかでてこないの?」
純粋を絵にしたような瞳が叔父に向けられる。
「それはね、空の神様が雨の神様へ大地に恵みをありがとうって言っているからだよ」
叔父の説明を聞いてメルヴィは一層瞳を輝かせ、再び虹へと向いた。
「そらのかみさま、ありがとうって言ってるね!」
「ああ、そうだね」
「だから、いっぱいいっぱいきれいないろしてるのかな?」
「そうだね。いっぱいいっぱいありがとうなんだろうね」
「じゃあ、もっと、いっぱいいっぱいありがとうなら、もっともっといっぱいきれいになるのかな?」
メルヴィの純真な質問に叔父は笑いを漏らし、姪の頭をやさしく撫でた。
「それはメルが自分の目で確かめてごらん」
「うん!」
メルヴィは元気よく返事し、消えるまで虹を眺めていた。
「おじさんにじね!」
「ああ、そうだね」
にこにこと幸せそうに虹を眺めていたメルヴィは突然眉間に皺が寄った。
「ねえ、おじさん」
「なんだい?」
「どうしてにじってあめがふってからしかでてこないの?」
純粋を絵にしたような瞳が叔父に向けられる。
「それはね、空の神様が雨の神様へ大地に恵みをありがとうって言っているからだよ」
叔父の説明を聞いてメルヴィは一層瞳を輝かせ、再び虹へと向いた。
「そらのかみさま、ありがとうって言ってるね!」
「ああ、そうだね」
「だから、いっぱいいっぱいきれいないろしてるのかな?」
「そうだね。いっぱいいっぱいありがとうなんだろうね」
「じゃあ、もっと、いっぱいいっぱいありがとうなら、もっともっといっぱいきれいになるのかな?」
メルヴィの純真な質問に叔父は笑いを漏らし、姪の頭をやさしく撫でた。
「それはメルが自分の目で確かめてごらん」
「うん!」
メルヴィは元気よく返事し、消えるまで虹を眺めていた。
| 2010/02/24 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
1本目は現代ものでいったので、今度はファンタジーにしてみました。
まだ連載していない「少女が立ち上がった先には」からメインキャラクターであるメルヴィちゃんの練習も兼ねて。
本編より年齢若い感じですが(笑)
5〜6歳をイメージできていたら嬉しいですねぇ。
ていうか、こんな短編ばかり書いてないで本編さっさと更新した方が嬉しいですよねっ(焦)
[あとがき。]
1本目は現代ものでいったので、今度はファンタジーにしてみました。
まだ連載していない「少女が立ち上がった先には」からメインキャラクターであるメルヴィちゃんの練習も兼ねて。
本編より年齢若い感じですが(笑)
5〜6歳をイメージできていたら嬉しいですねぇ。
ていうか、こんな短編ばかり書いてないで本編さっさと更新した方が嬉しいですよねっ(焦)
2/24
どうあがいても相容れない
「触らないで」
突然彼女から告げられた死刑宣告。僕は一体何のことかわからず戸惑うしかない。
「……触らないで」
もう一度、確かめるように彼女は言った。
「い、一体どうしたんだよ?」
理由を問いただそうとしても、彼女の口は堅く閉じられている。なだめようと近づいても、近づいた分離れていく。
彼女の固く結ばれた口が解かれ、開いた。
「他の子を触った手で触らないで」
全身に電流が走ったような気がした。どうして彼女がそのことを知ってるのかがわからない。視界がおぼろげになり、息が苦しい。
「気持ち悪いのよ……」
それだけ吐き出すように言うと、彼女は僕の目の前から去っていった。彼女がいなくなり、安堵のため息がこぼれる。そして頭を抱えた。僕と彼女のこれからを考えて。
突然彼女から告げられた死刑宣告。僕は一体何のことかわからず戸惑うしかない。
「……触らないで」
もう一度、確かめるように彼女は言った。
「い、一体どうしたんだよ?」
理由を問いただそうとしても、彼女の口は堅く閉じられている。なだめようと近づいても、近づいた分離れていく。
彼女の固く結ばれた口が解かれ、開いた。
「他の子を触った手で触らないで」
全身に電流が走ったような気がした。どうして彼女がそのことを知ってるのかがわからない。視界がおぼろげになり、息が苦しい。
「気持ち悪いのよ……」
それだけ吐き出すように言うと、彼女は僕の目の前から去っていった。彼女がいなくなり、安堵のため息がこぼれる。そして頭を抱えた。僕と彼女のこれからを考えて。
| 2010/02/24 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
珍しくシリアスです。
ていうか、これしか思いつかないって私どうしたorz
[あとがき。]
珍しくシリアスです。
ていうか、これしか思いつかないって私どうしたorz
2/25
思いやりか同情か
「うー、しんどい」
「どしたの?」
食堂で潰れていると幼馴染のはるかが隣に座ってきた。手にはカフェオレを持っている。
「……ちょっと、ね」
ちらりとはるかを見上げ、再び沈没する。
「あ、わかった。ついにフラれたかー」
頭上から憎たらしい声がする。
「……うるさい」
「え、マジ?」
はるかの声のトーンが下がる。それがまたあたしの神経を苛立たせる。
「もーほっといて」
「や、本当ごめんって! お詫びに飲み会セッティングするし!」
「いいって!」
つい感情のままに辛らつな言葉を吐いてしまう。はるかが困惑しているのが伝わり、気持ちを落ち着けるためにも深呼吸する。
「……でも、ありがと」
強張っていたあたしたちの空気が和らいだ気がした。
「ううん。……あ、週末空いてる?」
正直に言うなら、しばらくは泣いて暮らすつもりだった。けれども、はるかが気遣ってくれているのもわかった。
「今なら空いてるかな」
「じゃあ、映画付き合って! すっごい見たい映画があるのっ」
「……わかった。待ち合わせの時間とかメールして」
「りょーかい!」
あたしははるかの優しさに乗ってあげることにした。
「どしたの?」
食堂で潰れていると幼馴染のはるかが隣に座ってきた。手にはカフェオレを持っている。
「……ちょっと、ね」
ちらりとはるかを見上げ、再び沈没する。
「あ、わかった。ついにフラれたかー」
頭上から憎たらしい声がする。
「……うるさい」
「え、マジ?」
はるかの声のトーンが下がる。それがまたあたしの神経を苛立たせる。
「もーほっといて」
「や、本当ごめんって! お詫びに飲み会セッティングするし!」
「いいって!」
つい感情のままに辛らつな言葉を吐いてしまう。はるかが困惑しているのが伝わり、気持ちを落ち着けるためにも深呼吸する。
「……でも、ありがと」
強張っていたあたしたちの空気が和らいだ気がした。
「ううん。……あ、週末空いてる?」
正直に言うなら、しばらくは泣いて暮らすつもりだった。けれども、はるかが気遣ってくれているのもわかった。
「今なら空いてるかな」
「じゃあ、映画付き合って! すっごい見たい映画があるのっ」
「……わかった。待ち合わせの時間とかメールして」
「りょーかい!」
あたしははるかの優しさに乗ってあげることにした。
| 2010/02/25 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
今日中にあげられましたー(わーい!)
今回の書き方としては、先に会話文で流れを作っておいて、後で字の文を挿入して流れを保管するって感じですかね。
[あとがき。]
今日中にあげられましたー(わーい!)
今回の書き方としては、先に会話文で流れを作っておいて、後で字の文を挿入して流れを保管するって感じですかね。
2/26
君が描いた僕の顔 1本目
今日は日曜日で、俺は一週間ぶりの休日だ。
しかし愛しい愛娘が一心不乱にお絵かき帳に向かっているため、俺は手持ち無沙汰だ。
せっかくの休日だと言うのに、本当にお絵かき大好きさんめっ!
俺は仕方なくテレビを眺めている。
「パパ!」
可愛い愛娘がとびきり可愛い笑顔で俺のもとに飛び込んでくる。
「どうしたんだい?」
「ほらパパ見て!」
愛娘が差し出したのは先ほどまで一心不乱に描いていたお絵かき帳だった。お絵かき帳を覗き込むと、愛娘は胸を張って説明してくれた。
「パパをかいたんだよ!」
お絵かき帳に描かれていたのは、人外の何かだった。色も何故かカラフルで人肌色ではない。けれども俺は頬を緩ませて、愛娘を盛大に撫でてやるのだ。
「上手に描けたねぇー!!」
しかし愛しい愛娘が一心不乱にお絵かき帳に向かっているため、俺は手持ち無沙汰だ。
せっかくの休日だと言うのに、本当にお絵かき大好きさんめっ!
俺は仕方なくテレビを眺めている。
「パパ!」
可愛い愛娘がとびきり可愛い笑顔で俺のもとに飛び込んでくる。
「どうしたんだい?」
「ほらパパ見て!」
愛娘が差し出したのは先ほどまで一心不乱に描いていたお絵かき帳だった。お絵かき帳を覗き込むと、愛娘は胸を張って説明してくれた。
「パパをかいたんだよ!」
お絵かき帳に描かれていたのは、人外の何かだった。色も何故かカラフルで人肌色ではない。けれども俺は頬を緩ませて、愛娘を盛大に撫でてやるのだ。
「上手に描けたねぇー!!」
| 2010/02/27 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
はい、親ばかなパパンです。
あ、一人称「僕」にした方がよかったかな……。
でも、キャラクターの性格的には「俺」の方があってるので、このままで。
[あとがき。]
はい、親ばかなパパンです。
あ、一人称「僕」にした方がよかったかな……。
でも、キャラクターの性格的には「俺」の方があってるので、このままで。
2/26
君が描いた僕の顔 2本目
突然頬を平手で叩かれた。
「ひどいっ、そんな人だなんて思わなかった……!」
叩いた本人ははらはらと涙をこぼしていく。その様はまるで悲劇のヒロインだ。そんな彼女に僕は酷く吐き気を覚える。
「それは君が僕をちゃんと見ていなかったからじゃないのか?」
「そんなこと……」
「なんだ、ひどいってか? それはこっちのセリフだって」
「せ……いや……?」
「君は僕自身を見ようとはせず、君がこうであればいいという仮面を被せた僕を見ていたんだろ? だから今もそんな呆然とした顔ができるんだよ」
矢継ぎ早に追い詰めるように言葉を並べていく。そうすると彼女は耳を塞ぎ、ずるずると沈んでいく。
「やめ、て……!」
「そんなこと言えるのかい? 君が言い出したんだよ、そんな人とは思わなかったって。だから丁寧に説明してあげているんじゃないか」
「やめて、やめてよ……!」
涙を流し、髪を振り乱す彼女に感情が冷えていく。
「……なんだか興ざめしてしまったな。まぁ、いいや」
彼女に背を向けてただ一言。
「さようなら」
「ひどいっ、そんな人だなんて思わなかった……!」
叩いた本人ははらはらと涙をこぼしていく。その様はまるで悲劇のヒロインだ。そんな彼女に僕は酷く吐き気を覚える。
「それは君が僕をちゃんと見ていなかったからじゃないのか?」
「そんなこと……」
「なんだ、ひどいってか? それはこっちのセリフだって」
「せ……いや……?」
「君は僕自身を見ようとはせず、君がこうであればいいという仮面を被せた僕を見ていたんだろ? だから今もそんな呆然とした顔ができるんだよ」
矢継ぎ早に追い詰めるように言葉を並べていく。そうすると彼女は耳を塞ぎ、ずるずると沈んでいく。
「やめ、て……!」
「そんなこと言えるのかい? 君が言い出したんだよ、そんな人とは思わなかったって。だから丁寧に説明してあげているんじゃないか」
「やめて、やめてよ……!」
涙を流し、髪を振り乱す彼女に感情が冷えていく。
「……なんだか興ざめしてしまったな。まぁ、いいや」
彼女に背を向けてただ一言。
「さようなら」
| 2010/02/27 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
勢いのままに書いたらなんだかひどいのができあがっちまいましたぜ。
ていうか、それに至った出来事とかも考えて書いた方がよかったんですかね。
こんな感じのが書きたかったので、そのシーンだけ抜き出してみましたw
[あとがき。]
勢いのままに書いたらなんだかひどいのができあがっちまいましたぜ。
ていうか、それに至った出来事とかも考えて書いた方がよかったんですかね。
こんな感じのが書きたかったので、そのシーンだけ抜き出してみましたw
2/27
理想を追い求めて
人里離れた山奥、俺は生物研究のために建てられたこの屋敷に篭っていた。
この屋敷に篭り始めてもう一年になるが、それでもまだまだ新人だ。古い人だとすでに五年はいるらしい。
研究がそろそろ最終段階に入ってきたのもあり、俺たちは昼夜休みなく研究に没頭していた。しかし、あまりにも休みなく研究し続けたために、そろそろ頭が正常に働かなくなり始めていた。
俺は一服するために外へと出た。外にはすでに先輩が一服していた。
俺に気づいた先輩はこちらに片手をあげ、再び視線を戻した。俺は先輩の隣まで行き、タバコに火をつけた。しずかな時間が流れていく。
先輩が突然懐から時計を出して開き、渡してきた。俺は時計の内側に掘られた先輩の家族の写真を眺める。
「……どれくらい大きくなっているんだろうな」
それは無邪気な笑顔で写っている娘さんに向けられているんだろう。
「いつから?」
「もう三年になるかなぁ。もういい加減早く研究を終わらせて帰りたいよ」
「ですね……。俺もそろそろ帰らないと忘れられてそうですよ」
互いに苦笑を漏らし、俺たちは再び屋敷へと戻っていった。
この屋敷に篭り始めてもう一年になるが、それでもまだまだ新人だ。古い人だとすでに五年はいるらしい。
研究がそろそろ最終段階に入ってきたのもあり、俺たちは昼夜休みなく研究に没頭していた。しかし、あまりにも休みなく研究し続けたために、そろそろ頭が正常に働かなくなり始めていた。
俺は一服するために外へと出た。外にはすでに先輩が一服していた。
俺に気づいた先輩はこちらに片手をあげ、再び視線を戻した。俺は先輩の隣まで行き、タバコに火をつけた。しずかな時間が流れていく。
先輩が突然懐から時計を出して開き、渡してきた。俺は時計の内側に掘られた先輩の家族の写真を眺める。
「……どれくらい大きくなっているんだろうな」
それは無邪気な笑顔で写っている娘さんに向けられているんだろう。
「いつから?」
「もう三年になるかなぁ。もういい加減早く研究を終わらせて帰りたいよ」
「ですね……。俺もそろそろ帰らないと忘れられてそうですよ」
互いに苦笑を漏らし、俺たちは再び屋敷へと戻っていった。
| 2010/02/27 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
理想といったらこんな感じのマッドサイエンティスト(?)しか思いつかないっていうorz
混乱してるのが文章に出てますね(笑)
[あとがき。]
理想といったらこんな感じのマッドサイエンティスト(?)しか思いつかないっていうorz
混乱してるのが文章に出てますね(笑)
2/28
1年365日 1本目
広間に数百人という兵士が集まり、その前には黒い鎧に身を包んだ男が立っていた。
男は集まっている兵士たちに向けて声を張り上げた。
「さて、諸君! いよいよこの日がやってきた!」
唸るような歓声が広間を包み込み、引いていく。
「我らはこの日のために長い月日を耐えてきた!」
地鳴りのような声が轟き、兵士たちの士気が高まっていく。
「いよいよ作戦決行の時であるっ! 総員配置につけェッ!!」
男の合図と共に兵士たちは広間から離散した。
男は集まっている兵士たちに向けて声を張り上げた。
「さて、諸君! いよいよこの日がやってきた!」
唸るような歓声が広間を包み込み、引いていく。
「我らはこの日のために長い月日を耐えてきた!」
地鳴りのような声が轟き、兵士たちの士気が高まっていく。
「いよいよ作戦決行の時であるっ! 総員配置につけェッ!!」
男の合図と共に兵士たちは広間から離散した。
| 2010/03/02 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
1年の部分を月日にしてみましたorz
かなり強引で中途半端なSSになってしまい申し訳ないです;
[あとがき。]
1年の部分を月日にしてみましたorz
かなり強引で中途半端なSSになってしまい申し訳ないです;
2/28
1年365日 2本目
あまりに無感情過ぎて、気まぐれにアルバムへと手を伸ばすことはないだろうか。今まさにそんな状況だった。
ぱらりぱらりとめくられていくアルバムには、セピア色の写真たちが収められていた。
それは輝かしい過去であり、黒歴史でもあった。
今と比べれば、到底掴むことのできない遠い遠い向こう側であり、二度とあることのない出来事の数々だ。
懐かしく思い指先で撫ぜるけれども、何の温度も感じないことに胸がちりりと爆ぜる。
どうして彼女は今もここで笑っているのか。
当たり前のことも理解しがたい感情が襲ってくる。
彼女はどうしてここにいないのか。どうして彼女はもういないのか。
雫が彼女の上に落ちた。
「もう一年……。いや、まだ一年……か」
彼女は帰ってこない。いってきますと微笑んで出かけてから、帰ってこない。
ぱらりぱらりとめくられていくアルバムには、セピア色の写真たちが収められていた。
それは輝かしい過去であり、黒歴史でもあった。
今と比べれば、到底掴むことのできない遠い遠い向こう側であり、二度とあることのない出来事の数々だ。
懐かしく思い指先で撫ぜるけれども、何の温度も感じないことに胸がちりりと爆ぜる。
どうして彼女は今もここで笑っているのか。
当たり前のことも理解しがたい感情が襲ってくる。
彼女はどうしてここにいないのか。どうして彼女はもういないのか。
雫が彼女の上に落ちた。
「もう一年……。いや、まだ一年……か」
彼女は帰ってこない。いってきますと微笑んで出かけてから、帰ってこない。
| 2010/03/02 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
ザ・ノープラン!
無計画に書きすぎて意味不明ですみませんorz
無感情ぶり(?)が地の文で表せていたらいいなぁー。
[あとがき。]
ザ・ノープラン!
無計画に書きすぎて意味不明ですみませんorz
無感情ぶり(?)が地の文で表せていたらいいなぁー。
2/28
1年365日 3本目
時計が暗闇の中、日付を越えたことを知らせる。あたしは隣にいる同じ顔した別のあたしに微笑みかける。
「あと一年だね」
別のあたしも同じようにあたしに微笑みかけた。
「うん、楽しみだね」
四年に一度にしか来ないあたしたちの生まれた日。来ない年は前の日にお祝いだけれども、次の生まれた日はちゃんとお祝いすることができる。
「ね。お誕生日会絶対やろうね」
あたしたちは暗闇の中くすくすと笑いあった。
「あと一年だね」
別のあたしも同じようにあたしに微笑みかけた。
「うん、楽しみだね」
四年に一度にしか来ないあたしたちの生まれた日。来ない年は前の日にお祝いだけれども、次の生まれた日はちゃんとお祝いすることができる。
「ね。お誕生日会絶対やろうね」
あたしたちは暗闇の中くすくすと笑いあった。
| 2010/03/02 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
双子ちゃんです!
私的イメージはおかっぱでおそろいのワンピースパジャマ着てる感じで。
ちょっと不思議な感じが出したかったのですが、伝わってますかね……?
[あとがき。]
双子ちゃんです!
私的イメージはおかっぱでおそろいのワンピースパジャマ着てる感じで。
ちょっと不思議な感じが出したかったのですが、伝わってますかね……?
2/28
1年365日 4本目
星が瞬く夜空が窓から見える。窓から見える景色は煉瓦で造られた城のごく一部だけ。
部屋の明かりはランプだけしかなく、そのランプの明かりは手元を照らしていた。私は照らされた手元を一心不乱に見つめていた。手元には色あせた手紙があった。
どちらかと言うと上流家庭の娘だった私は約一年前、突然城に呼ばれて王子様の話し相手になるように命じられた。期限は一年だった。
背けば家族道連れに罪人になると、遠まわしに告げられた私は頷くことしかできなかった。
この一年、無愛想で遠慮のない王子様の話し相手を私なりに務めた。しかし、王子様はどれだけ話しかけても返事を返してはくれなかった。虚しさに泣いた夜もあったが、今ではもう慣れてしまい、何の感情も起こらないようになった。
手元の手紙は、城に入る前に手渡された家族直筆の手紙だった。これを読んで日々頑張れるようにと、母が涙を流しながら握らせてくれた。母の言の通り、私はこの手紙を毎晩読んで耐えてきた。そんな日々も明日で終わりを迎える。ようやく家族が待つ家へと帰れるのだ。私は安堵と喜びを胸に眠りについた。
太陽が昇りきる前に目を覚まし、身支度を整えた。最後の日ということもあり、無意識にいつもより丁寧に整えていた。簡単に食事を済ませた後、王子様付侍女のマヌエーラさんに引き連れられ、王子様の部屋へと赴いた。いつものように、最後の一日を過ごす予定になっていた。
扉が開かれ、王子様に頭を垂れる。
「おはようございます、王子様」
やはり返ってくるのは沈黙だった。私はもはや反応を諦めて顔を上げた。
「おはよう」
何が起こったのかわからなかった。目の前には何故か笑顔で私を迎える王子様がいた。
「一年間よく頑張ったね」
「…………はい?」
いまいち状況を察することのできない私を椅子に落ち着かせ、王子様は丁寧に説明してくれた。まるで今までが嘘のように。
「だからね、エミリア。君は試されていたんだよ」
「試されていた……?」
おうむ返しに聞くことで私はようやく理解し始めることができた。
「この国は豊かだが、近隣諸国とは未だ平和とは言いがたい状況だ。だから王妃は耐えることのできる賢い女性でなければならない」
王子様の言いたいことは理解できる。けれども、今なぜその話なのかが私には理解できていなかった。
「このことは秘密裏に進められていたことなんだけれどもね。僕が十五の頃から始まっていたんだよ」
「十五と言うと……三年も前からですか?」
「ああ。けれども、君と同じように呼ばれた彼女たちはすぐに去っていってしまったね」
「そんな! では、彼女たちは罪人に……?」
「ああ、あれは耐えられるか測るためのひとつの脅しみたいなものだよ。王家の人間もそこまで本気ではないから安心してくれたらいい」
その言葉に体の力が抜け、同時に怒りが湧き上がった。
「脅しって……そんな、ひどいです! わた、私がどんな気持ちでこの一年を過ごしたか……!!」
「そのことは君と出会った初日の顔色でわかっている。済まなかったね」
「そのように簡単に謝らないでください!」
「ははっ、申し訳ない」
そう言って笑う王子様を間近に見て、改めて不思議な気持ちになった。どうしてこの人は一年もの間、感情を殺すことができたのだろうかと。
「ところで、エミリアにはこれからも城にいてもらわなければならない」
気が抜けているところに不意な言葉で目の前が暗くなった。
「帰れ、ない?」
「いやもちろん、家に帰ることは可能だ。事前に言ってもらわなければならないが……」
「それは、どういうことです……?」
王子様はひとつ深呼吸をすると、それまでにこやかだった表情は影を潜め、見慣れた真顔へと戻った。それと共に私の中でも必然と覚悟が生まれた。
「君は王妃となる」
「そ、んな!?」
「これはもう決まっていることだ。ご両親も納得されている」
突然の言葉に感情が暴走を始める。
「私の意志はどこに!?」
「国の前では個人の意思などないのだよ」
「……!」
言葉を失った。これ以上乱暴なことはあるだろうか。そう思うと同時に涙があふれてきた。私は涙を留めることができず、王子様を見つめたまま涙を流した。
すると王子様は手を頬に添え、指先で涙を拭った。
「エミリア、君が幸せな時を過ごせるように僕は努力する。それで譲歩してくれないだろうか……?」
苦しそうな王子様の表情は私の心を氷解させた。
「もう、無反応はやめてくださいね」
私は頷き、王妃となった。
部屋の明かりはランプだけしかなく、そのランプの明かりは手元を照らしていた。私は照らされた手元を一心不乱に見つめていた。手元には色あせた手紙があった。
どちらかと言うと上流家庭の娘だった私は約一年前、突然城に呼ばれて王子様の話し相手になるように命じられた。期限は一年だった。
背けば家族道連れに罪人になると、遠まわしに告げられた私は頷くことしかできなかった。
この一年、無愛想で遠慮のない王子様の話し相手を私なりに務めた。しかし、王子様はどれだけ話しかけても返事を返してはくれなかった。虚しさに泣いた夜もあったが、今ではもう慣れてしまい、何の感情も起こらないようになった。
手元の手紙は、城に入る前に手渡された家族直筆の手紙だった。これを読んで日々頑張れるようにと、母が涙を流しながら握らせてくれた。母の言の通り、私はこの手紙を毎晩読んで耐えてきた。そんな日々も明日で終わりを迎える。ようやく家族が待つ家へと帰れるのだ。私は安堵と喜びを胸に眠りについた。
太陽が昇りきる前に目を覚まし、身支度を整えた。最後の日ということもあり、無意識にいつもより丁寧に整えていた。簡単に食事を済ませた後、王子様付侍女のマヌエーラさんに引き連れられ、王子様の部屋へと赴いた。いつものように、最後の一日を過ごす予定になっていた。
扉が開かれ、王子様に頭を垂れる。
「おはようございます、王子様」
やはり返ってくるのは沈黙だった。私はもはや反応を諦めて顔を上げた。
「おはよう」
何が起こったのかわからなかった。目の前には何故か笑顔で私を迎える王子様がいた。
「一年間よく頑張ったね」
「…………はい?」
いまいち状況を察することのできない私を椅子に落ち着かせ、王子様は丁寧に説明してくれた。まるで今までが嘘のように。
「だからね、エミリア。君は試されていたんだよ」
「試されていた……?」
おうむ返しに聞くことで私はようやく理解し始めることができた。
「この国は豊かだが、近隣諸国とは未だ平和とは言いがたい状況だ。だから王妃は耐えることのできる賢い女性でなければならない」
王子様の言いたいことは理解できる。けれども、今なぜその話なのかが私には理解できていなかった。
「このことは秘密裏に進められていたことなんだけれどもね。僕が十五の頃から始まっていたんだよ」
「十五と言うと……三年も前からですか?」
「ああ。けれども、君と同じように呼ばれた彼女たちはすぐに去っていってしまったね」
「そんな! では、彼女たちは罪人に……?」
「ああ、あれは耐えられるか測るためのひとつの脅しみたいなものだよ。王家の人間もそこまで本気ではないから安心してくれたらいい」
その言葉に体の力が抜け、同時に怒りが湧き上がった。
「脅しって……そんな、ひどいです! わた、私がどんな気持ちでこの一年を過ごしたか……!!」
「そのことは君と出会った初日の顔色でわかっている。済まなかったね」
「そのように簡単に謝らないでください!」
「ははっ、申し訳ない」
そう言って笑う王子様を間近に見て、改めて不思議な気持ちになった。どうしてこの人は一年もの間、感情を殺すことができたのだろうかと。
「ところで、エミリアにはこれからも城にいてもらわなければならない」
気が抜けているところに不意な言葉で目の前が暗くなった。
「帰れ、ない?」
「いやもちろん、家に帰ることは可能だ。事前に言ってもらわなければならないが……」
「それは、どういうことです……?」
王子様はひとつ深呼吸をすると、それまでにこやかだった表情は影を潜め、見慣れた真顔へと戻った。それと共に私の中でも必然と覚悟が生まれた。
「君は王妃となる」
「そ、んな!?」
「これはもう決まっていることだ。ご両親も納得されている」
突然の言葉に感情が暴走を始める。
「私の意志はどこに!?」
「国の前では個人の意思などないのだよ」
「……!」
言葉を失った。これ以上乱暴なことはあるだろうか。そう思うと同時に涙があふれてきた。私は涙を留めることができず、王子様を見つめたまま涙を流した。
すると王子様は手を頬に添え、指先で涙を拭った。
「エミリア、君が幸せな時を過ごせるように僕は努力する。それで譲歩してくれないだろうか……?」
苦しそうな王子様の表情は私の心を氷解させた。
「もう、無反応はやめてくださいね」
私は頷き、王妃となった。
| 2010/03/02 ブログ収録 | 2010/03/02 サイト収録 |
[あとがき。]
っしゃー、ラストー!!
即席で作ったため、細かいところまで決められてないですが長いの頑張ってみました……!
さすがに短すぎだろうと(苦笑)
改めて読み直したけれども、ちゃんと設定作って書き直しても良い位な出来かもしれない!
余裕があったらがんばってみます!
[あとがき。]
っしゃー、ラストー!!
即席で作ったため、細かいところまで決められてないですが長いの頑張ってみました……!
さすがに短すぎだろうと(苦笑)
改めて読み直したけれども、ちゃんと設定作って書き直しても良い位な出来かもしれない!
余裕があったらがんばってみます!